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お得?便利?うれしい?生活者とのつながりを考察する~生活者とのエンゲージメントを生み出す3つの要素~

これまで、顧客・生活者と企業との友好関係を表現する際には「ロイヤリティ」や「リレーションシップ」といった言葉が使われてきた。最近ではこれが「顧客エンゲージメント」という言葉に置き換わりつつある。本稿ではエンゲージメントの要素分解をしつつ、デジタル活用による顧客エンゲージメント強化の可能性について検討してみる。

【記事執筆者】

龍神 巧
株式会社NTTデータ ITサービスペイメント事業本部 SDDX事業部
サービスデザイン統括部 統括部長

2000年代中頃より、IT・デジタルを活用した新規サービス企画立上やBBR、ITグランドデザイン、デジタルマーケティングなどのコンサルティング業務に従事。流通・製造・通信・ユーティリティ・官公庁など多種多様な業種・業界向けのコンサルティング経験を背景に、2018年より、企業の収益拡大に資する新たなデジタル活用サービスの創発・グロースを組織実践すべく活動中。NTTデータグループ認定プリンシパル・ビジネスディベロッパー。

顧客エンゲージメントの定義

私たち生活者がお店などで買い物をする際には、何かしらの感情を抱いている場合が多い。レジが混んでいる、思った品ぞろえがないといったネガティブなものから、好きなタレントが出ている商品POPを見つけた、自分好みの品ぞろえがあった/もしくは他店舗よりも安価であるといったポジティブなものまでさまざまだ。顧客エンゲージメントとは、こういったネガティブ/ポジティブな生活者の感情が重なっていき、企業・店舗・ブランドと生活者との間に形成される相互信頼関係だと私は考えている。

この顧客エンゲージメント、ロイヤリティやCS,CX、CRMとは何が違うのか、またなぜ重視されるようになってきたのかといった背景や、エンゲージメントを高めることによるメリットなどについては、こちらの記事を参照頂きたい。

テキストは⾃動で⽣成されます

テキストは⾃動で⽣成されます

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本稿ではもう一歩検討を深め、エンゲージメントを要素分解し、かつ、デジタルがエンゲージメント要素に与えている影響を考察してみる。

顧客エンゲージメントのレベルと段階成長

顧客エンゲージメントにレベルって……そりゃあ企業と生活者の信頼関係なのだから、強い/弱いがあるだろうとご指摘を受けるかもしれない。その通りであるものの、大事なのはその顧客エンゲージメントの強い/弱いがどういった背景で成立しているかである。エンゲージメントを裏打ちする要素(=企業と生活者の信頼の背景)は、大きく3つに区分される。それが「オトク」・「ベンリ」・「ウレシイ」である。

「オトク」とはとにかく、他店に比べて安価を約束されているという場合もあれば、常に”コスパ良”の状態を企業が担保してくれている場合もある。生活者である我々は、ネットやチラシで値段を調べて都度店舗を選択したり、EDLP(※)や100均・300均といった企業を選択したりすることを通し、企業との間にオトク・エンゲージメントを築きあげている。もしくは”コスパ良”と判断して会員制のホールセールクラブで毎週末大量の買い物をする場合もあるだろう。常に安価・コスパ良を担保してくれる企業は我々生活者にとっては非常にありがたい存在であるし、またそれが一定の相互信頼関係に繋がっている。

※EDLP:Every Day Low Price。特売等を設けず、一貫して低価格で商品を提供し続ける方針

エンゲージメントの要素(企業と生活者の信頼の背景)は「オトク」・「ベンリ」・「ウレシイ」
エンゲージメントの要素(企業と生活者の信頼の背景)は「オトク」・「ベンリ」・「ウレシイ」

ところが、このオトク・エンゲージメントは「ベンリ」という上位要素によってあっという間に破壊される場合がある。この顕著な例がコンビニエンスストアの存在である。24時間365日、都心部であれば常に徒歩圏内になんらかのCVSチェーン店舗が存在している。お弁当や飲料だけでなく、ちょっとした日用品/食料品などであれば、(価格帯とラインナップはさておき)とりあえずの需要をすぐに満たすことができる。普段は価格にこだわり、多少遠くても自転車や車を駆使してお買い物をしていたにも関わらず、この「ベンリ」にはあらがえずに決して安くない価格で我々はお買い物をしてしまう。

なお、飲料自販機などもここに位置する。共通して言えることは、価格コントロールに加えてベンリを実感させるだけのチャネル構築・商品ラインナップ形成・ロジスティクス整備が入念に行われているということである。企業側の労力は一段増す形となる。

そしてさらに上位の要素となるのが「ウレシイ」である。これは、企業が生活者のエージェント(購買代理人)として振舞ってくれる、もしくはその企業での購買そのものが生活者の価値観を担保する場合に生まれるエンゲージメント要素である。

最もわかりやすい例は、(なかなか一般市民からは縁遠いが)百貨店の外商がこれにあたる。少し前まで展開されていた完全予約制の大型家具店もこれに近い効能を提供していたのかもしれない。顧客のことを本人以上に理解したうえでの接客・対応はまさに、かゆいところに手が届く、といった表現が適切だろう。

「ウレシイ・エンゲージメント」は、生活者にとっては最高の関係ではあるものの、企業側からするとその形成・維持には非常に大きなコスト・労力を要することになる。そのため企業にとって“有益な”顧客であると見込まれた場合にしか形成されないエンゲージメントレベルでもある。

デジタルによる、「ベンリ」の飛躍的拡大

さて、ここで「ベンリ・エンゲージメント」に話を戻そう。

すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、デジタルの普及により「ベンリ」の在り方は拡大している。これまでベンリを提供する企業は、生活者の近くに寄り添うべく、店舗ロケーション等を入念に作りこむ必要があったが、Amazonを筆頭とするECサービス群により、ベンリの範囲が手のひら(もしくは指の長さ)で完結されてしまってきた。

さらには「すぐ手に入る」といった部分も大型の倉庫設備投資や物流網整備により解決しつつある。これにより、多くの企業と生活者にとって「ベンリ・エンゲージメント」に触れる機会が飛躍的に拡大してきている。例えばコーヒーメーカーなどのちょっとした家電を買い替える際には、これまで「オトク・エンゲージメント」のもと、商品価格比較サイトを調べ、もっとも安価な家電量販店やECサイトを選んでいた人たちが、「ベンリ・エンゲージメント」重視によってヨドバシ.comで即日配達の恩恵を得る方向にシフトしつつあるようにも感じている。

この動きを加速するかのごとく、近年では、”7NOW”など、従来型のベンリ型企業たちが「もっとベンリなエンゲージメント」を築けるように企業サービスを拡充してきている。我々の生活は、デジタルによる「ベンリ」にかなり埋め尽くされつつある。

デジタルによる、「ベンリ」の飛躍的拡大
デジタルによる、「ベンリ」の飛躍的拡大

「ウレシイ」をデジタルで実現するには

では、「ウレシイ・エンゲージメント」もデジタルで実現可能なのだろうか?

顧客属性データや購買履歴などを活用したOne to Oneマーケティングは日々高度化していることから、EC上のパーソナライズされた商品配置やレコメンドメールも、ひと昔前にくらべて自分の意に沿った内容になってきている。また、ちょっと商品画面で迷っていると画面にチャット用ボックスが表示され、「お困りごとはありませんか?」とまるでこちらの心情を見通したかのような声掛け(文字掛け?)もしてくれるようになってきているし、そこに質問を打ち込めば、AIがある程度気の利いた回答をしてくれるようにもなってきた。

しかし、まだまだかゆいところに手が届く接客とは言い難く、個人的には「ウレシイ・エンゲージメント」を抱くには至っていないと感じている。おそらく、前述のようなリアル店舗に近づく方向性では、「ウレシイ・エンゲージメント」の形成には届かないであろう。いっそのこと、メタバースを活用し、デジタルの中にリアルを完全再現させ、リアルな世界では得られない全く新しい体験を実現するか(アバターでの体験がリアル世界でのウレシイに直結するのかはまだわからないが……)、もしくはデジタルとリアルそれぞれが得意とする役割をうまく組み合わせるアプローチが必要である。

デジタル/リアル組み合わせによる「ウレシイ・エンゲージメント」実現の例として、2022年にフランス・パリで開催されたVIVATECHにてLVMHイノベーションアワードを受賞したTOSHI(TOSHI – The Luxury of Convenience)があげられる。おそらく今後はこういった形態のサービスが拡大し、「ベンリ・エンゲージメント」の領域を「ウレシイ・エンゲージメント」が侵食し始め、より成熟した社会を形成していくであろう。

TOSHI(TOSHI – The Luxury of Convenience)
TOSHI(TOSHI – The Luxury of Convenience)

最後に、この「ウレシイ・エンゲージメント」の在り方も少しずつ変化してきているように感じている。特にZ世代を中心とした若年層において、「ウレシイ」の構成要素として、単純に自らの購買・サービス欲求を満たすことよりも、他己もしくは社会に貢献できることに喜びを抱く部分が増えてきている。これから先、企業が「ウレシイ・エンゲージメント」を実現していくためには、環境への配慮や社会コストの最適化、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)などを全面に押し出したサービスづくり・サービス提供を志向する必要があるのではないだろうか。

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