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アドテック東京2020セッションレポート「ショッピング体験の未来像」

2020年10月29日(木)・30日(金)、アジア最大級のマーケティングカンファレンス「アドテック東京2020」がリアル・オンラインのハイブリッド方式で開催されました。当社の内山さんがモデレーターを務めたセッション「ショッピング体験の未来像」では、OMO、COVID-19など近年の変化を踏まえ、“良いショッピング体験”を生み出すために企業がやるべきことは何か?について、豪華スピーカーによる熱い議論が展開されました。本記事では、セッション模様をダイジェストでお届けします。

◆スピーカー
藤原義昭:株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長
中川浩史:株式会社博報堂 博報堂行動デザイン研究所 所長
髙木真樹:株式会社電通デジタル エクスペリエンス部門 デジタルコマース事業部 コマースディレクション第1グループ デジタルプランナー

◆モデレーター
内山尚幸:株式会社NTTデータ SDDX事業部長

改めて考える、OMOとは何か? 

内山さんまず、最近特に語られることの多いOMOとは改めてどういったものか、オムニチャネルとの本質的な違いとはどう考えていらっしゃいますか?

 藤原さんオムニチャネルは企業視点から見た物流最適化の話で、OMOは顧客視点から始まった話だと考えています。昔は物流でモノをどうやって最適に配置するかという考え(=オムニチャネル)だったところから、お客さまがどう動いているかを企業が捉え、オンラインでもオフラインでもスムーズに行き来できる状態を作るようになった、これがOMOだと思います。ただ、あくまで行き来するというのは手段です。お客さまにとってオンライン・オフラインがマージされたほうが便利なのであればそれに対応する、これが重要だと思います。

株式会社コメ兵 藤原さん

内山さん:行き来は手段であり、手段を使ってお客さまにどう価値を出すかが大事ということですね。では、髙木さんはOMOをどう捉えているか、それを表す事例も含めて教えてください。

髙木さん単純にオンラインからオフライン、或いはその逆への送客であれば、O2Oでしかありません。OMOで大事なポイントは、オンラインとオフラインを相互連携させたうえで購買前・中・後の顧客体験をいかに作り上げるかである、という前提に立ってお話したいと思います。海外事例としてはみなさんもご存知のAmazon Goです。単にリアルの場の購買体験をデジタル化したということよりも、リアルとデジタルを融合したうえで、テクノロジーによって顧客体験を作り上げた点が成功ポイントと考えています。缶詰のように見た目で違いが判別しづらいような商品でも、店内各所のセンサーによって正確に商品を検知して決済ができ、かばんに入れてそのまま退店できるという体験を作り上げた、この点がポイントです。国内事例ではZOZOSUITを挙げたいと思います。ECだと試着ができないという不安をただ取り除くだけではなく、WEARというアプリで自分に近しい人のスタイリングを選んで見ることができ、そのまま買い物ができる。試着ができないという負の解消をさらに上塗りして顧客体験を向上させたという点において、成功と言えると思います。

左からコメ兵 藤原さん、博報堂 中川さん、電通デジタル 髙木さん

藤原さんOMOは目に見える施策がフォーカスされがちですが、裏側が重要だと思っています。中国の盒馬鮮生(フーマー)で最も優れている点は、ラストワンマイルの配送を現地の道を知り尽くしたリソースで実現していること。見えない部分の事業の組み立てまでしっかり考えて構築しないと、結局は顧客体験が豊かになりません。流行り言葉でOMOの事例を見て誤解してはいけないと感じます。

内山さん:購買の瞬間だけの快適さではなく、商品をお届けするラストワンマイルまで、企業としてお客さまに価値提供できているかという点が重要と感じます。関連して、コメ兵で最近こんなところまでやっている、という例はありますか?

藤原さんオンラインだけでなくオフラインも強化しています。コロナ前は、賃料もスタッフの人件費もどんどん上昇していましたが、企業からするとコストが上がるだけでお客さまに還元できない。では床面積を狭くしてオンラインでの買い物へ誘導しよう、というのも企業視点です。ではどうするか。コメ兵の買取業務はもともと人の多い街中に店舗を出してお客さまに来ていただくという発想でしたが、コンビニみたいに気軽に行けるようお客さまの住んでいる地域に店舗を出し始めました。オフラインでぱっと行けたほうがお客さまにとって嬉しいのであれば、ECである必要はありません。ただ、以前と違うのは、店舗を出して終わりではなく、店舗でどういう接客をしたかなどしっかりデータを取得し、お客さまがオンラインで来店されたときに店舗での接客情報を活かせるような仕組みを作っていることです。

中川さん生活者にとって買い場はどこでもよくなっています。一方、そこに至るまで、あるいは終わった後のプロセスも含め、ショッピング体験全体としてすべてのプロセスを楽しめることが重要です。それがデータでマネジメントできて、お客さまに快適なジャーニーを提供できるよう設計できないと、満足していただけない時代になってきていますね。

髙木さん:「最高のモノを作れば売れる」という時代を経て、今では「良いモノだがどの会社も大きな違いがない」現象が起きていると思います。独占的な市場を作るためには、モノの品質だけではなく、データの蓄積によるサービスの作り方が大事になってきたと考えています。

藤原さん:歯ブラシを売るのか、口内環境の良さを作るのか、というような価値のシフトですね。これまでメーカーは「最高の歯ブラシを作る」だったと思いますが、自分たちだけでは提供できない範囲も含め、お客さまに対してどういう価値を作っていくか、という視点が必要だと思います。

内山さん:データやデジタルの力でいろんなことができる土壌はそろってきています。なんでもできるからこそ、提供価値や、何をする企業なのかというところが問われているように感じます。

株式会社NTTデータ 内山さん

COVID-19がもたらした生活者心理の変化

内山さん:企業から見た価値提供の議論が続きましたが、一方でCOVID-19(新型コロナウイルス)によって生活者の何が大きく変わったと思いますか?

左から、内山さん、藤原さん、中川さん、髙木さん

中川さん昨年、博報堂行動デザイン研究所が発表した、デジタル時代の行動デザインモデル「PIXループ™」というものがあります。情報取得の主導権が生活者に移っている中で、広告会社としてどう入っていくかというのを日々考えています。

出典:博報堂行動デザイン研究所、“情報をプールする”生活者を捉える デジタル時代の行動デザインモデル「PIXループ™」を開発 (https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/75158/)

このPIXループのうち「Pool」に着目し、今年の5月22日~24日にCOVID-19によって生活者の欲求がどう変遷しているか調査を行いました。これはちょうど東京で緊急事態宣言解除される直前で、人々は2~3か月ずっと家にいてこれから外出できるかもしれないというタイミングにあたります。

このタイミングでは、安心系欲求(安全でいたい・損失回避したい・簡便にしたい)が非常に高い結果となりました。自分で三食ごはんを作らなくてはいけないのでレシピは簡単なものがいいとか、収入も減ってしまうかもしれないという時期にお金がかからない、損をしないということが大事になった結果だと考えられます。ただ、この状況でも単純に我慢するだけでなく、自分らしい生き方をしたいという充実系欲求も多いことが特徴的でした。ソーシャルメディア時代では、SNS映えする写真でアピールしたいと言った外的な欲求が中心でしたが、今回の調査ではこれらの欲求は減りました。「充実した生活」を求めるがゆえの購買は今後も定着する可能性があると思います。これらの現状を捉えてショッピングを設計していかないといけないと感じます。

藤原さん:この調査は、人間が合理的な動きをしないということがよく表れていると感じます。2011年の東日本大震災のあとに湾岸地区のマンションには住みたくないという話題だったのに、今ではたくさんの住宅が売れている。つまり、時代をタイムリーに捉えるというのが大事ですね。

中川さん:この調査の際に今後どうなると考えるかもアンケートを行っていますが、基本的に安全をベースにしたいという声が多かったです。誰もが自分の生死に関わる問題と感じるという意味ではCOVID-19は東日本大震災以上に広範な影響があり、安全欲求がないがしろにされることはないと思っています。

株式会社博報堂 中川さん

内山さん:実際の売り場でもこういう認識は常に持っていますか?

藤原さん:そうですね。店頭に消毒液を置いていますが、それで本当にCOVID-19のリスクを回避できるかはわかりません。でもなぜやっているかというと、お客さまも働いている人も安心「感」を得られるかどうかということです。マーケティングでもこの“感”が大事だと思っていて、企業はお客さまのことを考えてそれをどうやって提供できるかがリアルの場では大切だと感じています。

髙木さん:感情とデジタルマーケティングという観点では、Googleが先日発表したGoogle Analytics 4のように、事業会社自らAI(機械学習)を扱う時代になってきた中、AIと感情の融合について藤原さんはどう思われますか?

藤原さん:AIはセレンディピティが鍵だと思っています。AIではこの人に最適な商品、など1つのことをやるのは得意です。しかし、思ってもいないようなものとの出会いは、偶然生み出されることが多い。的外れかもしれないけれど、私は偶然の出会いをどうやってデータで作るかがこれからの課題だと思います。

良いショッピング体験に向けたお客さまとの向き合い方は?

中川さん:偶然の出会い(セレンディピティ)をデータで生み出すことにもチャレンジしていくのが大事だと思います。マイペースに買い物できるというデジタルの良さもありますが、リアルの世界だからこそできるセレンディピティやホスピタリティ、体全体を使った体感性を組み合わせて、OMOでどう実現していくかが大事と考えます。

髙木さん:実店舗があることが安心感だった時代から、これからはオフラインでの「体感性」が実店舗の価値として求められているように思います。VR試着などが当たり前になると、最初は感動しても次第にリアルの感触が恋しくなるはず。そうなると、店舗はまさに自分たちのブランドを体感してもらう・哲学を伝える場になる。こういったようにリアル店舗の価値・在り方がガラッと変わってくると思います。

藤原さん:SPA型で商品に独自性があり販売もできる会社は生き残っていくと思いますが、どこでも買える商品を扱う会社はこれから相当厳しくなると感じます。なぜなら、メーカーが自ら売りたいと思っていて、D2Cになっているから。世の中ほぼD2Cになっていくと思いますし、流通に商品を卸さないという世界が来るかもしれません。そうしたときに何で戦うかというと、ホスピタリティ、体感性などオフラインの良さをどう磨くか。そうでないとGAFAに食われていくと思っています。GAFAと同じ土俵で戦うのか、独自性のある体験・商品を自分たちで作れるか。でも自分たちの商品を作るのが一番難しいところですよね。

中川さん:海外ではセレクトショップ感のある流通が増えてきています。売っているものは他の店舗やECでも買えるけど、編集力・世界観の提供という点でわざわざその店舗で買っているという事例は海外でも出てきていますね。

内山さん:売り場としてのタッチポイントはいろいろ増えてきています。「リアル/デジタル」、「購買の前・中・後」のようなさまざまな視点から考え、みなさんはこれからどういう風に変わっていかないといけないと考えますか?

株式会社電通デジタル 髙木さん

髙木さん:ブランドのデジタルトランスフォーメーションがすごく大事だと感じます。例えば、リーバイスはジーンズを大量に作って売るのではなく、個人のカスタマイズジーンズをオーダーの翌日に配送することも可能にしています。作ったものを売る、ではなく売れるものを作るという考えに変わっているのです。いかにお客さまに愛されるブランドを作るか、ファン・コミュニティの創造を推進することで、ECをより推進できるか。お客さま企業に寄り添いながら、日本のEC化率向上に貢献していきたいと思っています。

中川さん:博報堂は広告会社ですが、狭義の広告を追いかけても厳しいと思っています。広くお客さま企業に貢献できる顧客体験をどう作るか。単純に生活者の理想のUXを作るだけでなく、コンバージョンを含めた形で設計・実現できるようになりたいですね。

藤原さん:弊社では、リレーユース(人からものを預かって他の人に渡すという考え方)によってサークルエコノミーを作っていこうという思想があります。こうなると小売という枠ではなくなり、お客さまにどういう価値を届けるかが重要になります。今小売に求められているのは、自分たちが求められている価値の再設計と、その価値実現の”1手段としての小売”を行うことだと思います。意味の棚卸が重要だと感じます。

内山さん:OMOやCOVID-19など色々な要素はありますが、結局は企業が提供できる価値は何なのか、ということですね。デジタルの力などでいろいろなことができる世の中になったことによって、企業の提供価値を再構築する必要があるのではないか。加えて、取得できるデータは膨大になりつつあるという状況をうまく利用して顧客体験を磨き続ける企業がこの先強くなるということではないでしょうか。

※所属および役職は、登壇時のものとなります。

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