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アドテック東京2019登壇レポート「キャッシュレスな世界が我々にもたらすもの」

2019年11月27日(水)28日(木)、東京国際フォーラムでアジア最大級のマーケティングカンファレンス「アドテック東京2019」が開催されました。28日のセッション「キャッシュレスな世界が我々にもたらすもの」に、スピーカーとしてNTTデータ SDDX事業部長 内山尚幸が、モデレーターとしてネットイヤーグループの石黒不二代氏が参加しました。
本セッションでは、キャッシュレスが当たり前となったとき、消費者体験やマーケティング活動はどう変化していくのか?キャッシュレスがもたらす新たな時代とその可能性について熱く議論されました。本記事では、セッション模様をダイジェストでお届けします。
◆スピーカー
小澤隆生:ヤフー株式会社 取締役 専務執行役員 最高執行責任者(COO)
大塚雄介:コインチェック株式会社 執行役員
内山尚幸:株式会社NTTデータ SDDX事業部長
◆モデレーター
石黒不二代:ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 CEO

キャッシュレス化の現状は?

石黒:この数カ月でキャッシュレスの世界が大きく変わりました。多くの決済サービスが生まれましたが、その中でどこがリードするのか、どこまでキャッシュレスが進み、それによってマーケティング活動はどう変化していくのかを紐解いていきたいと思います。
小澤さんが担当されているPayPayは今すごい勢いですが、現状を教えていただけますか。

小澤:消費税増税の2019年10月以降、PayPayの登録ユーザー・利用回数・決済金額は急増しています。加盟店も順調に増えており、同様のサービスの中で独走状態です。今後は、決済に留まらないスーパーアプリを目指し、“広告、O2O(Online to Offline)、金融”へと基盤を極大化し、多様な収益事業につなげる計画です。決済単体ではなく、決済と何を組み合わせるか、決済をおさえることで何ができるかが重要だと考えています

アドテック東京2019
(左)ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 CEO 石黒不二代氏
(右)ヤフー株式会社 取締役 専務執行役員 最高執行責任者(COO)小澤隆生氏

石黒:決済をおさえることで、どこを広げていきたいとお考えですか。

小澤金融とO2Oです。クーポンも、今後は決済連動型が主流になると考えています。先日、ユニクロのヒートテックをPayPayで買うともう一枚もらえるというクーポンを配布したのですが、その反響はすごかったです。PayPayがお金を払うだけのツールじゃなく、お客さまを呼べるツールとなっています。決済がマーケティングと連動しているのです

石黒:決済ツールがマーケティング活用できるようになったのですね。キャッシュレスが進むと仮想通貨の活用も進むと思いますが、仮想通貨業界の動向とコインチェックがめざすところを教えてください。

大塚:最近のトレンドとしては、日本円や米ドルがデジタル化される流れにあり、中国では国家でデジタルなお金をつくろうという動きがあります。また、これまでお金は国が発行するものでしたが、技術的な進化によって、FacebookのLibra(リブラ)のようにお金にひとしい仮想通貨も生まれてきています。戦後、ドルを中心に世界の経済は動いていましたが、仮想通貨の登場によって新たな経済圏ができつつあります。コインチェックは、日本円でまわる経済と仮想通貨でまわる経済が進むのを見据えながら、その間の受け渡し役として取引所をやっています。日本円を仮想通貨に換える、両替所みたいなものです。

石黒:一般ユーザーにとって、現金を仮想通貨に換えることのメリットは何でしょう?

大塚:国ごとのお金の規格にとらわれず、共通のお金の規格で支払いが簡単にできるようになることです。海外で現地通貨を持っていなくてもビットコインで支払いができ、逆に海外の人が来日した際もビットコインで支払いをすることもできます。また、日本から留学先のお子さんにスマホひとつで送金することも可能です。

石黒:海外へ銀行で送金しようとすると、すごく面倒だし、手数料がかかりますが、仮想通貨を活用すると、手数料も安く、メッセンジャーで会話しているのと同じような感覚でスピーディーに送金できますよね。インフラの顧客体験が変わってきていると実感します。

アドテック東京2019
コインチェック株式会社 執行役員 大塚雄介氏

支払いと通貨のデジタル化の先にある「店舗のデジタル化」とは?

石黒:決済や通貨の環境が変わると店舗での購買体験も変わってくると思うのですが、NTTデータのレジ無しデジタル店舗について教えていただけますか?

内山:支払いと通貨をデジタル化したら、もうひとつやるべきことが店舗のデジタル化です。NTTデータは「Catch&Go」という店舗をデジタル化した、「レジ無しデジタル店舗」を開発しました。お客さまが手に取ったものをそのまま持ち帰ることができ、レジでの支払いなくお買い物をすることができます。支払いも通貨も含め、End to Endでデジタル化されることで、さまざまな課題を解決でき、さらに消費も高められると、私たちは考えています

レジ無し店舗

石黒:レジ無しデジタル店舗によって、どんなことが解決できますか?

内山:昼どきのオフィス街のコンビニでよく見るような行列をなくす、小さく狭いロケーションでも出店できる……など、さまざまな課題を解決できますが、一番大きいのは、IoT センサーの技術の進歩でさまざまなデータが取得できるようになることです。お客さまは、どの商品を手に取って買ったのか、買わなかったのか、どのくらいの時間悩んだのか、買ったときどんな表情をしたのか、そうした感情的なデータまで取得できるようになり、それがマーケティング活動へ活用できます。
多くのデータを取得できるECに対して、リアルな店舗のデータ化は進んでいません。リアルとECの両方でデータを取得し、つなげて全体を可視化することで、顧客に向き合い、顧客の体験をしっかり向上させる、One to Oneの取り組みが可能になるのではないでしょうか。今は実験段階ですが、商用化されたらみなさんも体験してみてください。レジ無しデジタル店舗の実現によって、オムニチャネルを越えた、OMO(Online Merges with Offline)、オンラインもオフラインも融合された新しい店舗が生まれると思います。

石黒:デジタルマーケティングに取り組んでいる私たちからすると、POSデータなどの店舗でのデータと結びつけて分析できないことを歯がゆく思っていましたが、レジ無しデジタル店舗の導入でデータがつながりますね。
また、店舗の人が、雨が降ったからクーポンを出そうと思っても、POSの価格が変えられないなど機動的に動けない。こうしたマーケティングに関わることも変えていきたいと思います。店舗で何を買ったか、ウェブで何を見ているか、どの広告をクリックしたか……オンラインもオフラインもすべて統合できれば、マーケティングの世界は大きく変わります。それによって、さまざまな施策を実施できるようになり、顧客体験も大きく変わります。TOBを経て、NTTデータとネットイヤーグループが手を組んだのも、ここに狙いがあるからです。

内山:モノを買うときって、特徴だったり、価格だったりと、人によって選んだ理由はさまざまですよね。リアルな店舗にいったら、その人に合わせたキャンペーンが表示される……そんなこともできるようになるのかもしれません。

株式会社NTTデータ SDDX事業部長 内山尚幸

「店舗のデジタル化」で店舗の逆襲が始まる!?

石黒:購買が店舗からデジタルに移りつつある今、これは店舗の逆襲であるとも思っています。店舗でのデジタル体験が増えていると感じますが、さらに広がっていくのではないでしょうか。

小澤店舗の価値は高まりますね。オンラインが伸びてはいますが、オフラインであるリアル店舗に80%の購買は残ると考えています。オフラインでも詳細なデータがとれるようになり、お客さま一人一人に継続的にアプローチができるというのは、マーケティングの革新です。センシングの技術によって、リアルとデジタルがつながり、店舗の価値が高まる。誰が何回来たのか、何を手に取ったのか……、可視化できるほど打つ手は見えてきます。キャッシュレスによって可視化できることは確定しており、そこに真正面から向き合うと新しいマーケットができるのですが、企業の温度感はさまざまです。インターネットや仮想通貨が出てきたときもそうですが、新しいものをどれだけ信じて真正面からぶつかれるかが重要ですね

大塚:ボラティリティ(変動性)が大きいというのは、市場が始まったばかりの頃に起こるもの。仮想通貨も2年前くらいにどっと盛り上がって、今は落ち着きましたが、市場が始まったときに全力で向きあえるかが成否を分けますね。

石黒:仮想通貨に投機性があるとなると、ボラティリティが出てきます。でも、法定通貨に結びついていくと、一般の通貨に近い概念で新しい通貨が流通し、落ち着きどころが見えてきますよね。

大塚:そうですね。みんなで合意して進めよう、日本円に結びつくような方法であればいいのではなど、新しい考案が次々に出ているのが仮想通貨業界の現状です。

石黒:「レジ無しデジタル店舗」が広がるのにも障壁はあると思いますか?

内山:Suicaが始まったのが18年前、iPhoneが発売されたのが11年前です。「レジ無しデジタル店舗」が根づくには、やはりそれなりに時間がかかるだろうと思っています。もっとも、すべての店舗をレジ無しにしたいわけではなく、店舗でのテクノロジーの使い方は、それぞれにあると思っています。店舗側もお客さま側も利便性を感じるようになるまでには、山のように課題が出てくると思いますが、少しずつ改良していければと思っています。

石黒:店舗に入るのに認証入店の手続きが必要ですし、中には戸惑う人もいるかもしれないですね。店舗のタイプにもよりますが、どこから商用化したいと考えていますか?

内山:レジの行列や夜間の従業員の確保などの課題を抱えている、コンビニエンスストアやドラッグストアなどと考えています。その次は、これまで店舗を出そうと思ってもできなかった小スペースでしょうか。

石黒不二代
ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長 CEO 石黒不二代氏

加速するキャッシュレス化~消費者体験、マーケティング活動はどのように変わるのか?~

石黒:Suicaの話が出ましたが、みなさん他の決済サービスについてはどのように考えていますか?

小澤:サービスにもよりますが、店舗側に機械が必要で、どこででも使えるわけじゃない他の決済サービスと違って、PayPayは導入が簡単だから使える店舗がどんどん増えています。ただ、お客さまがスマホでアプリを立ち上げるのが、ちょっと面倒かなと思うことはあります。あと、「ペイペイ」って音も、ちょっと恥ずかしい(笑)。決済サービスはまだ過渡期だと考えています。カードもスマホも何も出さずに買い物できるのが一番便利。今後ウェアラブルデバイスになって、将来的にはデバイスもいらなくなり、生体認証になるのではと思っています。

石黒:現金ってたしかに不便ですよね。特におつり。

小澤:店舗のオペレーションで面倒なのがおつりですよね。おつりのために現金を準備しておかなければいけない。キャッシュレスを体験することで、おつりが面倒とみんな気づき始めたのでは。おつりはなくなると思います。コンビニにいくときも、スマホだけ持っていけば良いですしね。

内山:以前は高額だとカード、少額は現金となっていましたが、スマホ決済が増え、少額でも現金以外で払うハードルは低くなりました。誰が何をどこでどのように買ったのか。それがキャッシュレスによってデジタル化され、データが集まるので、これをうまく使いこなすことが大切になってきたと思います。ただ、データの使い方を模索中の企業も多くいらっしゃいます。店舗のデジタル化推進をしていく中で、データ活用のベストプラクティスも提供していきたいと考えています

今後の展望

石黒:今後、キャッシュレスが進み店舗がデジタル化されることで、ユーザーの購買体験も大きく変わります。ユーザーにとっては待ち時間の短縮化などにより利便性が高まり、企業側にとってはリアルとデジタルのデータがつながり可視化されることで、ユーザーとのOne to Oneのコミュニケーションが可能になり、集客向上に向けたマーケティング活動の精度を高めることができます。
その中で、イニシアチブを持つのは、ユーザーのことを一番に考え、ユーザー体験を向上させていく企業なのだと考えます。今後ユーザーも参加できる民主的な新しい世界ができると素晴らしいと思います。

アドテック東京2019

※所属および役職は、登壇時のものとなります。

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