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欧州最大のTechカンファレンス「VivaTech2022」から見る、リテール業界・最新デジタルトレンド

SDDX事業部では、リテール業界に変革をもたらす世界のデジタルトレンドとそれによるビジネス変化の状況を調査・発信しています。今回は、2022年6月15日から同18日にフランス・パリで開催された欧州最大級のテックカンファレンス、Viva Technology2022をレポートします!

VivaTechnologyとは

VivaTechnology(以降、VivaTech)は2016年からフランス・パリで開催されている、大企業とスタートアップによるオープンイノベーションをテーマとした欧州最大規模のテックカンファレンスです。このイベントは、フランスをスタートアップ大国に変革するための仏政府主導プロジェクト「フレンチテック」においても重要な役割を担っており、2016年のスタート以来マクロン大統領が毎回登壇・演説することでも知られています。

コロナ禍の影響で3年ぶりに本格的なリアル開催となったVivaTech2022には、ヨーロッパ、アフリカ、アジアを含む30カ国からスタートアップ企業などがブースを出店、リアル会場には約9万人、オンラインには約30万人が集まりました。また、ウクライナのゼレンスキー大統領が3Dホログラムで登場しAI技術の可能性について演説をするなど、世界中が注目する4日間となりました。

VivaTech会場の様子

前回SDDX事業部からVivaTechに参加した2019年と比較すると、リテール関連では店舗DXやOMO(Online Merges with Offline)に関する展示が減少していたことが特徴的でした。チャット・ビデオコマースなどの展示はあるものの、目新しい技術や情報はなく、あるとすればUXの若干の差程度という状況で、各社この領域での差異化に苦しんでいるという印象を受けました。

一方、今回は以下の2つが大きなトレンドと感じました。

  • ブランド・消費者が双方の理解を深めることによるショッピングの満足感向上
  • バーチャル空間という新たな領域への参入促進

鍵となるテクノロジーや事例とともに、このトレンドを読み解いていきます。

より納得度の高いショッピングを実現するテクノロジーと体験

まずは、ブランドが消費者一人ひとりへの理解を深め、より個人にフィットした体験・商品を提供するために挑戦している事例を紹介します。キーワードは「AI×パーソナライズ」です。

AI×パーソナライズで一人ひとりに合う商品を提案

顧客データを基にAIを使ってパーソナライズされた商品をレコメンドすることは今や当たり前になってきています。VivaTech2022では、その中で差異化を図るために独自性のある情報をAIにインプットし、消費者へのフィードバックの納得感を高めようという取り組みが見られました。それが顕著に表れていたのがビューティーテック系企業の展示です。

〇 脳波で自分にぴったりの香水を見つける「YSL SCENT-SATION」

世界的ファッションブランド「サンローラン」のコスメライン、「イブ・サンローラン」が展示していたのは、脳科学・神経科学に基づいてパーソナライズされたフレグランスアドバイスを体験できるソリューションです。脳波測定用のヘッドセットを頭に装着した状態で香水を嗅ぐと、その際の脳の反応や感情変化に基づいてその人に最も響く香りを発見することができます。
店員の知識によらずに消費者が求めている・好む香りを解読できるだけでなく、可視化された香りの好みを世界中でデータ共有できる
こともメリットです。

YSL SCENT-SATIONブース
写真右上のニューロ・コネクテッド・ヘッドセットを着用してサービスを体験している様子

〇 著名メイクアップアーティストのノウハウをAI化「MAKE UP FOR EVER」

フランス・パリ発のメイクアップブランド「MAKE UP FOR EVER」のブースでは、世界中の著名なメイクアップアーティストのノウハウがインプットされたAIによるメイクアドバイスのサービスが展示されていました。
このサービスでは、スマホで撮影した顔の形や肌色などの特徴を分析し、「あなたの顔と好み」にバッチリ合わせたメイク法・化粧品の使い方を提案してくれます。
自分に合う化粧品をただ提案するのではなく商品の使い方まで紹介することで、買ったのにうまく使えないという悩みを防ぎ、よりブランドを愛してもらえるよう工夫している点が他にない差異化ポイントであると感じました。

MAKE UP FOR EVERでの実際のメイクアドバイス体験

〇 肌の状態を診断しパーソナライズされたコスメを提案「ランコム」

世界シェアトップの化粧品会社「ロレアル」の中でも高級志向なラグジュアリーブランド・「ランコム」では、肌状態などを診断し、パーソナライズされたコスメを提案するソリューションを展示していました。15,000枚以上の肌写真を学習させたAIで13種類以上の臨床症状をスコア化・集計でき、UVダメージ・テクスチャーなど8つの肌要素で分析したレポートが出力されます。これまでビューティアドバイザーの感覚で実施していた提案にAI診断情報がプラスされ、より精度の高いレポートとしてフィードバックをもらうことができます。
AI診断で肌タイプを正確に把握できる点は魅力的ですが、一連の体験は最大40分程度を要するなどまだ手軽とは言えない状況です。しかしながら、VivaTechでは連日40~60分待ちと大盛況で、肌悩みへの興味関心の高さがうかがえました。

ランコムの肌診断体験ブース

体の状態や好みに合わせてAIが提案するソリューションは以前から存在します。しかしここで紹介したソリューションでは、信頼できる情報にもとづいた「あなたのための信頼できる提案」であることが一連の体験を通して感じられることがポイントとなり、それによって納得感の高いアウトプットになっていると感じました。

ライフスタイルや価値観の多様化によって消費者の求めるものは細分化しています。ブランドやリテール企業が今後も消費者から選ばれ続けるためには、「どんな根拠に基づき提案されたパーソナライズ体験・商品なのか」という納得感、もしくは驚き・意外性がポイントとなるのかもしれません。

実際に身に着けているかのような「バーチャルフィッティング&ショッピング」

続いてご紹介するのは、消費者自身がよりブランド・商品との相性を理解しやすくするための取り組みです。

カメラなどで撮影した自分の姿に衣服を試着させることができるバーチャルフィッティングも、AIによるパーソナライズと同様に以前から存在する技術です。しかし、過去に体験された方の中には、カメラのトラッキングが追いつかず体と衣服のずれが生じるなど、本当にフィットするのか確信を持てずに終わってしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
VivaTech2022では進化版のバーチャルフィッティング体験を提供する事例が登場し、店舗で試さなくても決断できるレベルに肉薄していました。

〇 あらゆる視点から着用イメージをチェック「LOEWE」

ラグジュアリーブランド「ロエベ」では、ARによる靴のバーチャルフィッティングでスムーズなトラッキングを実現していました。ニューラルネットワークと高度な3Dジオメトリ・アルゴリズムによって実現されたAR技術により、カメラを足に向けて回転させてもずれることなくトラッキングできます。

ロエベのバーチャルフィッティング体験足を動かしてどの角度から見ても、試し履きをしている自分の姿に違和感ないレベルだと感じることができました。なお、現状ではサイズのフィット感までは確認できませんが、自分のよく着る服・靴下などと合うかチェックしたうえで購入するといった体験はすぐにでも実現できそうです。

〇 オンラインでカスタマイズしたアクセサリーを試着「Fred」

アクセサリーメーカー「フレッド」のバーチャルフィッティングでは、ECサイト上でアクセサリーのパーツを選んでカスタマイズし、カメラに腕をかざすだけでフィッティングできます。
サービスローンチ後のECサイトのCVRが57%向上するなど、単価の高い商品であるにも関わらず定量的な成果がしっかり出ているそうです。これは、フィッティングの違和感の少なさだけでなく、ブランドのアクセサリーを自分好みにカスタマイズしてすぐに試すことができるという、これまでなかった新しいワクワクする体験ができることに理由があるのではと感じました。気に入ったものはおねだりして購入してもらえる機能がついているという点も、ラグジュアリーブランドならではの体験設計でした。

フレッドのバーチャルフィッティング体験

〇 5秒のスキャンで3Dアバターが完成「3DFASCINATION」

続いては、高精度なバーチャルフィッティングを支えるテクノロジーです。3DFASCINATIONでは、カメラ8個の組み立て式スキャン装置で全身を5秒ほどスキャンするだけで、約5分後には精度の高い3Dアバターを作成することができます。タイトな洋服を着用してスキャンすれば、体のサイズも正確なアバターでバーチャルフィッティングが可能になります。
店舗でスキャンだけ行い、帰宅後にオンライン上で自分のアバターでの着せ替えを楽しみながらショッピングするなど、新しい体験を作る中での活用用途がさまざまにありそうです。

3DFASCINATIONのアバター作成体験
写真右は実際にVivaTech会場で作成した3Dアバター

衣服やアクセサリーが自分に似合うかどうかを実際に身に着けて確認することは、これまでリアルの世界でしかできない体験と思われてきました。しかし、満足感を得られるレベルにまで昇華されたバーチャルフィッティングにより、また一つ「リアルにしかない体験」が「オンラインでもできる体験」へと進化を遂げました。

現状のリアル店舗/オンラインの役割分担に固執せず、テクノロジーや消費者の変化をタイムリーに捉えて反復的に提供価値を磨き込むことが、リテール企業やブランドにおいてますます重要となっていきそうです。

いよいよ身近になりつつあるバーチャル空間での消費体験

VivaTech2022におけるもう1つのトレンドは、バーチャル空間への参入を促進する動きです。「メタバース・NFT」はカンファレンスの中で最も注目されたトピックの1つであり、さまざまなセクター(輸送、エネルギー、観光、高級品、ファッションなど)の企業が展示を行っていました。また、会場で参加者全員に出席証明のNFTが配布されるなどイベントを盛り上げる役割も果たしました。

その中で、リテールに関連する動向として注目したいのは、メタバースやNFT活用の難易度・敷居を下げるためのソリューションです。前章でご紹介した3Dアバターを簡易に生成する「3DFASCINATION」もメタバース空間で利用するアバター作成の難易度を下げることに寄与しますが、他にもさまざまなサービスが展示されていました。

〇 メタバース空間作成をより自由に、より簡単に「METAV.RS」

既存のメタバース空間ではなくオリジナルのメタバース空間を作り、そこに店舗をオープンできるソリューションです。空間自体から設計するため自由度が高く、ブランド独自の世界感を表現できるだけなく、スマートフォンで使える3Dスキャナアプリを用いて簡単にNFTを作成できるなどより簡単にメタバース体験を生み出すことができます。

〇 仮想通貨なしにNFTを購入「Bitski」

“NFT界のshopify”を自称するBitskiでは、クリエイターやブランドが簡単に利用できるNFTのマーケットプレイスと、クレジットカードでNFTが購入できるウォレットを提供しています。
クリエイター、開発者向けのツールが充実しているだけでなく、消費者目線では、MetaMaskウォレットと仮想通貨を所有していなくても利用できる点が特徴的です。ブロックチェーンの複雑さを排除しシームレスな体験を生み出すというポリシーのもと作られたサービスによって、有名ブランドやアーティストがNFTに参入しやすい環境、消費者が気軽にNFTを楽しめる環境を生み出しています。

Bitskiブース

〇 メタファッションのデジタルツインをめざす「DRESSX」

最後に紹介するのは、消費者のデジタルアイテム利用を身近なものにしてくれるサービスです。

DRESSXでは、アパレルの大量生産やSNS投稿のためだけに購入した衣服を撮影後返品する消費者の存在などに問題意識を持ち、ファッションのワクワク感を保ちながらよりサステナブルに、かつ生産しないファッションとしてデジタルファッションに取り組んでいます。最近ではメタ社との提携で名前をご存じの方も多いのではないでしょうか。
DRESSXのサービスでは、洋服の画像データをアップロードすることでそのデータをデジタルクローゼット上で管理できたり、自分の写真にデジタルファッションを着せたりできます。加えて、リアルタイムに撮影している動画の人物上にデジタルファッションを着用しているように見せることもできます。

出典:DRESSX / OUR VISION (https://dressx.com/pages/about)

デジタルファッションというとまだ身近に感じられない方も多いかもしれませんが、こういった気軽な楽しみ方のできるアイテムが増えていくことで、どんどんポピュラーな領域になっていきそうです。

「O(オンライン)+O(オフライン)」から「O+O+O(オンチェーン)」へ

VivaTech2022では、①テクノロジー活用の深化によってより納得度の高いショッピングを実現しようとする動きと、②バーチャル空間という新しい活動エリアへの参入を促進する動きという大きく2つの潮流が見られました。

これらの動向を踏まえると、今後はオンライン/オフラインという2軸だけでなく、さらにメタバース・NFTを用いたバーチャル空間での体験、いわば「オンチェーン」を加えた「O+O+O」の3軸でカスタマージャーニーを描いていくことが重要になるのではないでしょうか。

O+O+Oの世界観

これまで多くの企業がオンライン・オフラインの2軸でお客さまの体験を設計し、磨き上げてきました。また、この2軸は今後もそれぞれの役割を見直しながら磨き上げ続けていくものです。
それに加えてこれからは、バーチャル世界へも消費者の生活領域が広がっていきます。オンライン・オフラインという2軸においては、リアルの商品をどちらかで購入するという二者択一の関係でしたが、バーチャル世界が加わることで「バーチャルだけで持っていた商品をリアルでも使ってみたい」というように互いの世界に影響を与えながら、両方の世界が共存関係になるのではないでしょうか。

「O+O+O」の世界では、消費者と企業との接点がより多様かつ複雑化していくことが想定されます。早期にバーチャル世界での戦略を計画し始めることで、より自分に心地よい体験を求める消費者の心を満たすようなカスタマージャーニーを提供できるのではないでしょうか。

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