「顧客エンゲージメント」という言葉を正しく説明できるでしょうか?「企業と顧客との間に生まれる信頼性や絆」といった意味を持つ言葉ですが、マーケティングにて重視される理由やそのメリット、高めるためのステップとは具体的にどのようなものでしょうか。今回は「顧客エンゲージメント」について詳しく解説します!

「顧客エンゲージメント」=企業と顧客との間に生まれる信頼

「エンゲージメント(engagement)」という英語を直訳すると「契約」「婚約」「約束」といった意味を指します。一方、マーケティングにおける「顧客エンゲージメント」とは「企業と顧客との間に生まれる信頼性や絆」「長期間にわたって顧客と親密な関係性を築き上げること」といった意味があります。

具体例としては、例えばあなたが好きなアパレルブランドがあったとします。そのブランドショップを年間に何回訪れたか、ショップスタッフとどのくらいの頻度で会話したか、年間の購入額はいくらか、そのブランドのSNSにどのくらいアクセスしているか……といったことが、そのブランドに対するあなたの「信頼」を表すひとつの尺度になります。そういった尺度を用いながら可視化された商品・サービス、ブランドに対する顧客の「信頼」が、マーケティングにおける顧客エンゲージメントです。

顧客エンゲージメントとは

「顧客エンゲージメント」と「ロイヤリティ」は違う?

顧客エンゲージメントに似た言葉として「(顧客)ロイヤリティ」があります。エンゲージメントとロイヤリティはどう異なるのでしょうか?

ロイヤリティとは、その商品やブランドのことを顧客がどれだけ好きになってくれるか、という「忠誠」を意味します。つまり、ロイヤリティという言葉には、企業側が「顧客はこういう商品やサービスが好きなのではないか」と推し量り、それに対して顧客がどれだけ従ってくれるか、というニュアンスが含まれます。

対して、顧客エンゲージメントの場合は顧客が企業の商品やサービスの提供を一方的に受けるだけでなく、顧客の側もよりよい商品やサービスにしていくために参画したり、積極的に口コミを発信してくれたりするような双方向の関係性があります。ロイヤリティは企業から顧客に対して一方通行のニュアンスがありますが、顧客エンゲージメントは企業と顧客がよりフラットな関係になり、双方向のコミュニケーションが行われることが前提となります。

「顧客エンゲージメント」と「CX」「CS」は違う?

もう一つ、顧客エンゲージメントと「CX(Customer Experience:顧客体験価値)」、「CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)」との関係についても整理しておきましょう。

CXとは、企業・ブランドに対して顧客が抱く感情的な価値を表します。一連のマーケティング施策がめざすコンパスのような役割を果たします。

テキストは⾃動で⽣成されます

テキストは⾃動で⽣成されます

テキストは⾃動で⽣成されます

その企業・ブランドが顧客に対して良質なCXを提供し続けることで、その企業・ブランドと顧客との間に長期的な関係性、すなわち顧客エンゲージメントを築くことができます。CXが「企業・ブランドとの接点における(その瞬間の)顧客体験」であるのに対し、顧客エンゲージメントは「企業・ブランドと顧客の間に生まれる長期的な関係性」です。両者には時間軸の違いがあり、良質なCXがあってこそ、顧客エンゲージメントが形成されます。

また、CSは商品やサービスに対する顧客の満足度を評価する指標です。このCSは、顧客エンゲージメントを測る指標の一つとして用いられます。

顧客エンゲージメントが重要視されるのは何故?

顧客エンゲージメントは、CXなどと並び、ここ数年の間にマーケティングにおいて重視されるようになりました。そこには、消費行動をとりまく4つの変化があります。

<背景①>市場競争が激化しコモディティ化が進んだ
D2C(Direct to Consumer)の普及をはじめ、誰でも気軽にネットショップを開けるようになり、多くのBtoC市場で参入障壁が下がっています。そのため市場競争が激化し、商品・サービスのコモディティ化が加速して性能や価格では差別化が図りにくい状況になりつつあります。

そこで、競争に巻き込まれることなく顧客に自社の商品・サービスを選択してもらうために、その企業・ブランドならではのユニークな体験価値を創出し、顧客とコミュニケーションを図りながら親密かつ長期的な関係を築いていくことが重視されるようになりました。

<背景②>顧客の発信力が高まった
かつてテレビCMなどのマス広告が大きな影響力を持っていた時代には、企業・ブランドが発信するイメージを顧客がそのまま受け入れ、支持していました。ところが、スマートフォンの普及によって、顧客は膨大な情報の中から商品・サービスを多角的に吟味し、自分にとって本当によい商品・サービスかどうかを厳しく見極めるリテラシーを身に着けるようになりました。

また、顧客自身も「メディア」となってSNSなどでリアルな声を発信するようになり、その口コミが影響力を持つようになりました。そこで、顧客に本当に信頼される企業・ブランドとなるために、顧客との双方向のコミュニケーションが重視されるようになりました。つまり、ひとりひとりの顧客との結びつきを重視し、繰り返し買ってもらえる顧客、周りの人に口コミを広げてくれる顧客を増やしていくことが重要になりました。

顧客エンゲージメントが重要視されるようになった背景

<背景③>LTVが重視されるようになった
背景①②はCXが重視される背景とほぼ同じですが、それに加えて、長期的な関係構築の重要性が高まったことが、顧客エンゲージメントが重視される理由に挙げられます。

商品・サービスの性能や価格だけでは差別化が図りにくくなったことに加え、スマホやSNSの普及によって顧客が受け取る情報量が爆発的に増加したことにより、新規顧客の獲得が難しくなってきました。その結果、既存顧客の離反を防ぎ、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めることがマーケティング戦略上重視されるようになりました。

顧客エンゲージメントが高まるとどんなメリットがある?

<メリット➀>リピート購入やアップセル/クロスセルの確率が高まる
顧客エンゲージメントが高まることで、リピート購入やアップセル/クロスセルをしてくれる確率が高まり、それがさらなる顧客エンゲージメントの強化に繋がるといった、好循環が期待できます

また、サブスクリプションサービスなど会員制の事業モデルにおいては、解約が減少するのも大きなメリットです。顧客エンゲージメントが高まり、その商品・サービスのファンになればなるほど、その商品・サービスの継続的な購入・利用を続けてもらえるようになります。

<メリット➁>顧客自らが口コミを発信してくれる
エンゲージメントの高い顧客は、自主的に周りに商品・サービスのポジティブな口コミを発信してくれます。エンゲージメントの高い既存顧客が見込み顧客の獲得に貢献してくれることで、結果として広告宣伝費の抑制にもつながります。

<メリット➂>コミュニティを通じた「価値共創」が起こる
SNSなどでコミュニティができることで、顧客同士で課題を解決できるようになったり、顧客から企業へ貴重なフィードバックをもらえるようになったりすることで、顧客と企業による価値の”共創”が起こることも、顧客エンゲージメント特有のメリットです。

この一例として、カゴメのコミュニティサイトが挙げられます。家庭菜園の様子やレシピの共有、最新情報の交換といった、顧客同士の交流に加え、カゴメの企画に対して投票形式でのフィードバックを行っています。顧客としては、自分の好きなサービスを自分の意見でより良いものに改良していこうという動機づけが働くので、コミュニティに参加しながらさらに顧客エンゲージメントを高めてくれます。


出典:カゴメ株式会社|みんなとカゴメでつくるコミュニティ &KAGOME(アンドカゴメ)  https://and.kagome.co.jp/

顧客エンゲージメントを高めるためのステップ

では、顧客エンゲージメントを高めるために、企業としてはどのような取り組みが必要なのでしょうか。この章ではそのステップを見ていきます。

<ステップ①>めざす顧客エンゲージメントのゴールを明確にする
まずは「顧客とどういう関係性を構築したいか」という、長期的に実現したい顧客エンゲージメントのゴールを明確にしましょう。

企業にとってのゴールはあくまで売上・利益の向上ですが、顧客エンゲージメントと同様に、短期的な向上ではなく中長期的な向上が重視されるようになってきました。そして、その実現のカギは、CX、UX(User Experience)といった「体験」に移っています。したがって、顧客エンゲージメントのゴールを設定する上では、「どういった顧客体験を提供したいか」というCX、UXの議論が不可欠です。

<ステップ②>カスタマージャーニーごとに現状を把握・課題を抽出する
次に、ステップ①で定義した顧客体験を、より具体化していきます。顧客がその商品やサービスを発見してから購入・利用するまでのプロセス(「カスタマージャーニー」と言います)ごとに現状を把握し、課題を抽出するのが次のステップです。

顧客エンゲージメントを高めるためのステップ

その課題抽出の手法はさまざまですが、一例としてNPS ®(ネット・プロモーター・スコア)を用いる手法があります。

NPS ®(ネット・プロモーター・スコア)
商品・サービスを友人や知人に勧めたいか?という質問を顧客に対して行い、0-10のスケールでスコアリングするもの。9-10を「推奨者」、7-8を「中立者」、0-6を「批判者」として分類。推奨者の割合から批判者の割合を引いた値がNPS®となる。NPS®がプラスであり高ければ高いほど推奨度が高い。

<ステップ③>顧客エンゲージメント向上につなげていくための解決策を立案する
ステップ②によって、カスタマージャーニーの各プロセスにおいて、具体的な課題(あるいは、顧客が「もっとこうしてほしい」と思う期待)が抽出されたら、その達成に必要となる解決策を検討します。

解決のためのアイデアはたくさん出てくると思いますが、その実現性だけでなく、「顧客から見てどのくらい課題や期待が達成できそうか」と言った効果の大きさや、「その解決策は自社らしい方法なのか」といった、自社ブランドとの整合性なども考えることが重要です。

<ステップ④>顧客エンゲージメントを高めるKPIを設定する
そして、ステップ③で考えた解決策を評価するためのKPIの設定も重要です。定量的かつ測定可能なKPIを設定することによって課題の解決度合いが分かるので、その結果を踏まえて改善を繰り返すことで顧客エンゲージメントを高めていきます。

顧客エンゲージメントの形は、当然ながら商品・サービスによって異なります。例えばコスメブランドであれば、ステップ②によって「店頭での接客時間を増やせばCSが向上し、売上が上がるのではないか?」という課題が導かれたら、ステップ③にて「店頭では、商品を試してもらうことで接客時間を増やす」という解決策を立案します。その課題・解決策をもとにステップ④として、「店頭での接客時間」を顧客エンゲージメント向上のKPIとして設定します。

顧客エンゲージメントのポイントは「双方向」と「時間軸」

顧客エンゲージメントについて、言葉の意味からそのメリット、具体的なステップまでを見てきました。

顧客に良いCXを提供し続けることによって、顧客との長期的な信頼性・関係性を築くことが、顧客エンゲージメント向上において重要です。すなわち、「企業と顧客の双方向の関係性」と「長期的な時間軸での関係構築」がカギだといえるでしょう。

ぜひ、良いCXを積み重ねていくことで、顧客エンゲージメント向上につなげていきましょう!

監修者:中嶋 洋介

面白かったら「いいね!」お願いします!
WHAT’S NEW

新着記事を探す

KEYWORD

キーワードから記事を探す

PICK UP LINKS

関連するサイトを見る