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リテールメディアは生活者との関係を強化する手段になり得るのか

近年、小売業界で注目されている「リテールメディア」。国内でもここ最近大手企業による取り組みが増えてきました。この記事ではリテールメディアの概要や特徴から、国内の具体事例、今後取り組む上での重要な観点までを解説します。

【記事執筆者】

三輪 功
株式会社NTTデータ ITサービスペイメント事業本部 SDDX事業部
マーケティングデザイン統括部 部長

最近話題のリテールメディアとは?国内事例は?

近年、リテールメディアというキーワードがトレンドになっています。

リテールメディアとは、小売企業が自社で保有する生活者の購買データなどを活用して広告を効果的に配信する仕組みのことです。生活者ニーズに応えるパーソナライズされた広告を提供することで、生活者との関係を強化し、売上やブランド力を高めることができるということで注目を集めています。

また、小売企業が自らメーカー向けに自社データを活用した広告メニューを提供・販売する、新たなビジネスモデルでもあります。

リテールメディアの特徴と市場規模

リテールメディアの特徴を簡単に整理すると、大きくは以下の3つとなります。

  • 小売企業が保有する生活者のデータ(実店舗やECサイトでの購買履歴や会員情報など)を活用し、ターゲットに合わせたパーソナライズされた広告配信が可能になります。
  • 小売企業自身が媒体となって広告枠を提供するため、小売企業にとっては、自社の商品やサービスの販売促進だけでなく、他社から広告収入を得ることができます。
  • 生活者にとっては、自分の興味やニーズに合った情報を得ることができます。

リテールメディアの成功例としては、世界最大級の小売スーパーマーケットとして知られる米ウォルマート(Walmart)の取り組みが有名です。

ウォルマートは2021年初頭に「Walmart Connect」と呼ばれる広告プラットフォーム事業を立ち上げました。このプラットフォームでは、ウォルマートが保有する約1億5000万人分の顧客データや約4700店舗内外のデジタルサイネージなどを活用してパーソナル広告を配信しています。

出典:Walmart Connect

ウォルマートの広告プラットフォーム事業の責任者であるジャン・バトスキー(Janey Whiteside)氏は、「私たちは消費者にとって最も信頼できるパートナーになりたいと考えています。私たちは消費者のニーズに応えるだけでなく、それを超えることができると信じています」と述べています。

こうしたウォルマートによる取り組みを中心に、米国では2023年までに約6兆円の市場規模に成長し、デジタル広告費の20%がリテールメディアになる見込みが出ています。

出典:Retail Media 2022

日本国内においても、2026年に800億円を超える市場に成長することが見込まれています。米国の動きと同じく、新たな収益源確保を目的に、コンビニエンスストア、ドラッグストア、飲食店などの業界で自社のリアルな場や認知度を活かし、自社を媒体とした広告事業は今後も増えると予想されています。

出典:CARTA HOLDINGS

国内企業な主な事例

国内の市場規模をみるとまだまだこれからという印象かもしれませんが、実際には国内の多くの大手企業は既にリテールメディアに取り組んでいます。ここでは主だった事例を時系列で見てみましょう。

マツモトキヨシHD

2019年10月、株式会社マツモトキヨシホールディングスがデータ活用を強力に推し進める「Matsukiyo Ads」を発表しました。データ分析によりヒット商品を独自開発したほか、広告事業にも乗り出したとのことです。自社の店舗やECサイト、アプリなどで消費者の購買データや行動履歴などを収集し、メーカーの広告を配信するサービスを提供しています。

ツルハHD

2020年8月、株式会社ツルハホールディングスが「ツルハADプラットフォーム」を発表しました。会員IDに紐付く購買データを活用して、広告主に対して効果的な広告配信や商品提案を行うものです。ツルハホールディングスは、このプラットフォームを通じて、店舗のDX化や顧客満足度の向上、広告収入の増加などをめざすとのことです。

キリン堂

2021年3月、株式会社キリン堂がリテールメディア「K.ads」を本格展開、リテールメディア事業に参入しました。購買データなどを活用したデジタル広告の配信、210万ダウンロードのアプリへのクーポン配信、店舗のサイネージを用いた店舗販促、メールマガジンなどを組み合わせた、細やかなターゲティングを可能とした広告サービスを提供しています。

ファミリーマート

2021年8月、株式会社ファミリーマートと伊藤忠商事株式会社は、店頭や自社アプリを活用したメディア事業を開始すると発表しました。ファミリーマートの顧客体験向上や加盟店収益の増加、伊藤忠商事のメディア事業の拡大などをめざし、店頭に設置されたデジタルサイネージやスマートフォンアプリなどを通じて、お客さまにとって有益な情報や広告を提供していくとのことです。

イオンリテール

2021年11月、イオンリテール株式会社がGoogleと協業してリテールメディア広告に取り組むことを発表しました。自社のECサイトやアプリなどで消費者の購買データを収集し、Googleの広告ネットワークに提供することで、消費者に適切な広告を配信することをめざすとのことです。

セブン‐イレブン・ジャパン

2022年9月、株式会社セブン‐イレブン・ジャパンがリテールメディア推進部を設置し、リテールメディアに本腰を入れることを発表しました。自社の店舗やECサイト、アプリなどを広告媒体として活用することをめざすとのことです。

リテールメディアが注目される背景と支える技術

では、なぜリテールメディアが近年注目されるようになったのでしょうか。

その背景には、インターネット広告に対する個人情報保護の規制強化と、企業のオムニチャネル化による生活者データの増加、そしてデータ分析技術の発展があります。

インターネット広告の台頭と個人情報保護の規制強化

生活者の行動履歴や属性などを分析してターゲティングや効果測定ができるという特徴は、当初はインターネット広告で実現されていました。インターネット広告は年々増加、2020年には日本の広告費全体の約4割を占めるまでになりました。一方で、インターネット上で生活者の行動や興味を追跡するために使われるサードパーティーCookie(ウェブサイトに訪問した際にブラウザに保存される情報)が欧州や米国などでは規制されるようになりました。

欧州のGDPR(一般データ保護規則)や米国のCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの法規制をはじめ、GoogleやAppleなどの大手プラットフォーム企業がサードパーティーCookieの利用を制限する方針を打ち出したことで、インターネット広告のターゲティングや効果測定に利用していたサードパーティーCookieに依存した広告配信は困難になってきています。また、生活者自身もプライバシーへの意識が高まっており、不要な広告や迷惑メールなどを拒否する傾向が強まっています。

このような状況下で、従来から生活者と直接接点を持つ小売企業が生活者ニーズや嗜好データを活用し広告を配信する、リテールメディアが注目されるようになりました。

企業のオムニチャネル化による生活者データ増加とデータ分析技術の発展

リテールメディアは、小売企業が自社で保有するファーストパーティーデータを活用して、生活者の購買意欲や行動パターンなどを詳細に分析し、生活者に最適な広告を配信することができます。そして、これら実現にはAI、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析などの技術の発展が大きく寄与しています。

AIによって、生活者の購買データや行動履歴などを学習し、生活者のニーズや嗜好を予測し、最適な広告を配信することができます。クラウドコンピューティングは、大量のデータを高速かつ安全に処理し、広告配信や効果測定などのプラットフォームを提供することができます。ビッグデータ分析は、生活者の購買データや行動履歴などを可視化し、広告主や小売企業にとって有益なインサイトを抽出することができます。

リテールメディアの発展の方向性と課題

近年、発展が進むリテールメディアですが、今後より取り組みが拡大させるためには、以下の観点に注力すべきと考えています。

データの質と量

リテールメディアの最大の強みは、生活者と直接接点を持つ小売業者が保有する豊富なデータです。

このデータを分析し、生活者の嗜好や購買意欲を把握することで、効果的な広告配信が可能になります。しかし、データは常に変化するものであり、収集や管理にはコストや労力がかかります。また、データの活用にはプライバシー保護や法規制などの課題もあります。したがって、リテールメディアを進める企業は、データの質と量を確保し、適切に活用することが必要です。

メディアとしての魅力と多様性

リテールメディアでは、小売業者自身が媒体となりますが、その媒体が生活者に魅力的かつ多様であることも重要です。

生活者は、自分に合った商品やサービスを探すために、さまざまな媒体を利用します。その中で、小売業者の媒体が信頼できるものであれば、生活者はより関心を持ちやすくなります。また、小売業者の媒体が多様であれば、広告主もよりターゲットを絞った広告配信ができます。したがって、リテールメディアを進める企業は、自社の媒体を魅力的で多様なものにすることが必要です。

パートナーシップの強化

リテールメディアでは、小売業者と広告主とのパートナーシップが重要です。小売業者と広告主は、それぞれの目的やニーズに合わせて、最適な広告配信や評価方法を協議し、信頼関係を築くことが必要です。また、小売業者は、広告主に対して、自社のデータや媒体の特徴や効果を明確に伝えることが必要です。

さらに、小売業者は、広告テクノロジーの導入や運用において、専門的な知識や経験を持つパートナーと連携することが必要です。したがって、リテールメディアを進める企業は、パートナーシップの強化に努めることが必要です。

まとめ

リテールメディアは、小売業者、生活者、広告主の三者にとって有益な仕組みであり、今後も注目されるトレンドです。その成功には、前章で挙げたとおり、データの質と量、メディアの魅力と多様性、パートナーシップの強化という3つの要素が不可欠です。リテールメディアを進める企業は、これらの要素を意識して戦略を立てることが重要と考えます。

最後に、実はNTTデータでもリテールメディアに関する取り組みを進めています。ある小売業のお客さま企業では、Twitter上の商品の感想や魅力的な活用方法の投稿を店舗のデジタルサイネージに表示する実証実験に取り組んでいます。この取り組みによって、購買額の向上や、店頭での立ち止まり率アップが期待されています。(店頭サイネージ上に表示するSNSのデータについては、投稿者の使用許諾を頂いた上で実施しています。)

NTTデータでは、リテールメディアに限らず、マーケティングDXに資する新たな取り組みをお客さま企業と共に実践しています。今回のような新たな潮流を踏まえた意見交換や実証実験などの取り組みについて関心がありましたら、お気軽にご連絡ください。

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