
NTTデータの現場発の取り組みである「次世代マネージャーメンタリング」について、前編・後編に分けてお届けします。近年のビジネス環境の急速な変化によって、新規事業などにチャレンジする企業が増えてきている中、求められるリーダーシップ・マネジメント像も変化してきています。そうした変化に対応すべく、株式会社リード・イノベーションの協力を得て実施したプログラム「次世代マネージャーメンタリング」。前編では、その背景から取り組みのねらい、成果について、関係者の対談を通してお伝えします。
(インタビュイーの紹介)
溝口 孝史
株式会社リード・イノベーション 執行役員
慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)大学卒業後、富士通株式会社では営業改革に携わり、3,000名の営業変革に着手。その後コンサルティング会社で人材開発・組織開発領域で支援。Salesforce.comの200名営業のon boarding責任者を経て、現職。現職では戦略策定、組織戦略、新規事業立案、人事責任者を担う。社外向けには経営・人事領域でのコンサルティングやエージェントとしてはエグゼクティブコーチングを実施。
小木曽 信吾
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 マーケティングデザイン統括部 デジタルマーケティング担当 課長
https://dmk.nttdata.com/editors/shingo-ogiso/
行貝 昌彦
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部プラットフォームデザイン統括部 テクノロジーサービス担当 課長代理
NTTデータ入社後、エンターテイメント業界向けのシステム開発及び運用保守に従事。その後、同業界のお客さま企業へ業務支援の形で常駐し、新規事業企画・開発に参画。帰任後、同システムの運用保守を行いつつ、運用コスト削減を目的とした運用自動化案件や、システム更改案件に従事した後、現職へ。現在は、エンターテイメント業界を対象とした新規サービス企画に取り組むと共に、統括部横断での運用保守品質向上施策を推進中。
きっかけは、新規事業領域のマネジメントへの課題認識
― どのような経緯でプログラムが発足したのですか。
溝口さん:私たちリード・イノベーションは組織のマネジメントを新たな形態に変えていくご支援をしています。今回はご縁があって、小木曽さんに自身の経験をお伝えする機会をいただいたことがきっかけです。現状の課題をお伺いし、私自身が今まで実践してきたことから何かしらの価値提供ができそうだというお話で盛り上がったことを覚えています。
小木曽さん:当時事業部内で人材育成チームを作り、今後の方針について議論をしていました。その中で、マネージャー(課長)である私自身が感じていた課題として、私たちは組織として新規事業を創出する事業部であるにも関わらず、その営みを現場社員に任せすぎていないか、ということでした。
お客さま企業からシステム開発を受託する従来型のNTTデータの事業であれば、ある程度方向性がはっきりしている中でいかに統制していくかというマネジメントが中心でした。一方、新規事業創出は自分たちでゴールを模索するため、マネージャーとしていかにチームを動かし成果を出すのか、そして新規事業にチャレンジする社員をどう支援できるのか、つまり今までとは異なるマネジメントのあり方が問われていると考えていました。
行貝さん:今回事務局を担当した私自身、システム開発出身のため決まった目標に対しどう動くかということを優先して考えていました。近年のVUCAの世の中で自ら主体的に動いていくために、またチームを率いていく上でも、自分自身にとっても勉強になるチャンスだと思い、事務局として参加しました。
実務を前提とした「次世代マネージャーメンタリング」プログラム
― プログラムの全体像について、お伺いします。
小木曽さん:プログラムの中核部分は、溝口さんによる個人・グループコーチングです。今回はトライアル的な側面もあったため、参加者が新規事業創造に携わっているかどうかにはこだわらず、「参加者自身の直近の環境変化が大きく、かつ正解の無いチャレンジングな領域をリーダーとして推進している課長層」をメインターゲットとしました。
参加者には、自身が率いるチームの成果目標を宣言してもらい、その実現に必要なマネジメント・リーダーシップのあり方について実務を通して考え、挑戦してもらうこととしました。その目標設定や振り返りに、溝口さんとのコーチングを活用してもらう形です。
なお、昨年度は2回に分け、上期は私たちSDDX事業部を対象に、下期は法人・ソリューション分野(SDDX事業部の上位組織)まで対象を広げ、実施しています。
溝口さん:プログラム推進にあたり、注力したポイントは次の3つです。
- Off-JTとOJTを組み合わせ、学んだことを実践できる目標設定とした
- プログラムを前後半に分け、段階を追って考えるべき・実践すべきことを設定した
- LICT(リードイノベーション・コミュニケーションタイプ)を理解するための共通言語をインストールした
<注力ポイント①②の詳細はこちらの動画をご覧ください!>
小木曽さん:実務を前提にする点は、企画段階で私からもお願いしたところです。なるべく実践的な学びが得られるようにしたいとのねらいはあったのですが、実際に進めてみると、そのねらいに加えて良い意味でとても緊張感があったように感じます。自分が参加者だったら大変だろうなと思うこともありました(苦笑)。
行貝さん:設定した目標がきちんと実践できているかどうか誰が見ても分かる状態になっていたことで、意識的に実践に向け奮い立たされていたようで、そこが厳しくもあり緊張感があるように感じました。また、タイプが違う参加者が多くいたので、「自分が知らないタイプを知ることで、自分の考え方が全てではないことを実感した」という会話を参加者同士がしていたことは印象的でした。参加者がそうした気づきが得られるよう、意図的に溝口さんが話を振っていましたよね。
溝口さん:それが3つめのポイントですね。自社(リード・イノベーション社)の「LICT(リードイノベーション・コミュニケーションタイプ)」という独自メソッドを用いて、人がコミュニケーションを取る上での思考タイプを分類できる考え方をみなさんに伝えました。そうすると自分や周囲の人がどんなタイプかが分かります。グループコーチングのグループ内でも、自分とは違うタイプと理解して話をすることで、新たな発見があります。
例えば、物事の決め方が論理的か感情的かという違い。論理的な人はファクトを並べないと意思決定できないのですが、感情的な人はひとつでも面白いことがあれば飛びつくんですよね。これは、上司と部下、あるいはクライアントと自社という関係でも同じです。これが理解できれば、「あの人は自分とはここが違うので相談してみます」という考えが生まれてきます。その意識の変化が面白かったですね。
部下の成功に寄り添い、挑戦する姿への変化
― 取り組みを通して、印象に残ったことは何でしょうか。
溝口さん:最初のセッションで思考タイプをお伝えしたことが、参加者にとって一番印象的だったようです。今まで感覚的だったことが言語化され、腑に落ちたようでした。”好き嫌いや相性ではなく、タイプが違うだけ“という理解がベースにないと、人を動かすことはできないと思っています。この大前提はみなさんにとって大きかったようですね。
小木曽さん:その上で、前半で自分のマネジメントスタイルをしっかり見つめ直せたことがとても良かったと考えています。自チームのメンバーをスキルや知識、経験からではなく、タイプの違いから理解し、マネージャーとしてのコミュニケーションスタイルを変えてもらうことがすごく響いていたように感じます。参加者の変化は、前半最後の中間報告で私たち運営側も感じたところです。
溝口さん:最近、アセスメントという言葉がすごく流行っていて、ストレングスファインダーなどに代表される自己分析ツールがたくさんあるんですよね。一方で、知っているけど使えないことが一番の問題と思っています。どうやったら使えるかを一緒に考えることが大切と思います。
小木曽さん:もうひとつ印象に残ったこととして、チームメンバーの成功がまずあって、そのためにマネージャーにどんなサポートが期待されているかという考え方が、マネージャーのタイプによらず重要という点は新たな発見でした。
溝口さん:部下育成=部下評価と思っている方もいますが、部下の成功のために自分に何ができるが大事です。部下との面談は、「上期の評価はAです、下期も頑張ってください」ではなく、「上期の評価はBでした。あなたの伸びしろはこういう点です。下期、この伸びしろのために自分にできることはありますか」という質問を繰り出すことです、というお話もプログラムで行いました。加えて、「部下が動かないのは全部自分の責任だと思った時何ができますか、何をすれば動かせますか」とひたすら問い続けていましたね。
―参加者がプログラムを通じて大きく変化したところは何ですか。
溝口さん:発言する主語がI(私)からWe(私たち)に変わった方がいました。これは本当に素晴らしいことで、自分だけでなくチームや会社としてどうすべきかという視点に変わったからこそだと思いました。
また、実際に現場を巻き込んで変化を起こした方や、最初は必要ないと思っていたチャレンジに取り組んで業績を向上した方など、ビジネスに直接繋がることを実践した方も多くいらっしゃいました。
小木曽さん:マネージャーとしては、成果を出さなければならない一方でリスクも考えなければいけないため、無意識にリスクヘッジしがちです。ですが今回、失敗やその過程での試行錯誤をネガティブに捉えずに自分やチームを変えていくための一つの行動として位置付けた参加者が多かったというのは印象的でした。失敗が許されないNTTデータの従来の企業文化の中では、大きく変わるきっかけができたところではないかなと思います。
行貝さん:それに加えて、特に後半は自分だけで何とかしようという姿勢から、他の参加者の力を借りて解決しようという姿勢に変化した方が多かったですよね。普段、周りにマネジメントやリーダーシップの悩みを相談することが少ない中で、「殻を破ってさらけ出す」姿を強く感じました。
単なる研修と捉えず、ビジネス成果に向け伴走する意味とは
―従来の殻を破って新たな行動へ導くのはなかなか難しいと思うのですが、工夫した点はありましたか。
溝口さん:どこまでイラっとさせようかな、というさじ加減は難しいところがありました。タイプに合わせて強くコーチングすることもあったのですが、仮にそれでイラっとしていても、そこで止めない。そして次回目標に到達した際はきちんと褒めるということを行っていました。達成できたことは認めるということは必ず意識していました。
小木曽さん:リード・イノベーション社の社風だと思うのですが、コーチングの中に熱さと優しさを感じました。NTTデータではそれを表に出す人が少ないので、良い意味で影響された参加者は多かったと思います。
行貝さん:私は「伴走」が今回の大きなキーワードだったと思います。単にやってください、というだけでなくその結果まで追いかけて見ていただいたおかげで、参加者全体で前に進められたことが成功のカギだったと思います。
溝口さん:そうですね。よくあるご相談として、社員のモチベーションが低い、離職率が高いので何とかしたいというお話があります。ですが、離職率改善やモチベーションの底上げが根底の課題ではなくて、ビジネスで成果をあげないと意味がないですよね。そこにゴールを置いて伴走したことが大きいと思います。
小木曽さん:今回のプログラムは単なる研修ではなく、参加者自身の仕事の成果につなげるための一つのきっかけという視点を外していないということが大事ですね。
溝口さん:参加者の方々も最初はそこまで考えていなかったと思います。ですが、私から「上長から言われている目標に向け、年度末までに何をすれば評価してもらえるのか」と質問すると、何をすべきかという具体的な話になり、さらに深堀すると、参加者の方々が苦しそうな顔になります。その顔をさせるのが僕の仕事です、とお伝えし研修を進めていった、その生々しさが良かったように感じました。
後編では今回の取り組みを通して得た成果や、組織変革におけるさらなる展望について紹介していきます。

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