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スターバックスに学ぶマーケティングの本質【後編】 “未知の体験”を伝えるマーケティングとは

前回につづき、かつてスターバックスコーヒージャパン立ち上げの総責任者を務めた梅本龍夫さんとNTTデータSDDX事業部長を務める内山尚幸さんに「マーケティング」をテーマに特別対談を行っていただきました。MAHO-LA CREATIVE ㈱ 代表の櫻井亮さんをファシリテーターに、後編では新たな顧客体験を広げていくために必要な取り組みについて語っていただきました。

【対談メンバー】
梅本龍夫
有限会社アイグラム 代表取締役 物語ナビゲーター
日本電信電話公社( NTT)、ベイン&カンパニー、シュローダー・ベンチャーズ、サザビ ―リーグ取締役経営企画室長を経て、独立(経営コンサルタント)。スターバックスコーヒージャパン立ち上げ総責任者として日本参入調査、合弁契約策定、事業戦略と組織構築を推進。 

内山 尚幸
株式会社NTTデータ SDDX事業部長
NTT DATA一筋で25年。現在はリテールを中心とした事業変革とグロースの実行支援を推進。

櫻井 亮
MAHO-LA CREATIVE
㈱ 代表
Hewlett Packard
からNTT DATAを経て多業種の企業コンサルティングに従事。2019年、アンラーニングのため英国の大学にてMaster of Arts(修士課程)デジタルマネジメント修了。現在は、事業支援、新規事業開発、研修・ワークショップにて企業がいま必要とする組織学習について提案している。

前編の記事はこちら

テキストは⾃動で⽣成されます

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個人的な「体験」の重要性、それを共有する「対話」

櫻井さん:SDDXでは、現在どのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか。

内山さん:私たちは、既存の商売のあり方に一石を投じたいという想いから、小売業のデジタル変革をめざしています。コンビニやスーパといった小売業は、既存の店舗フォーマットを変えていかないとAmazonを始めとした強豪プレイヤーとの競争に勝ち残ることができませんし、成長源泉が得られないと思ったからです。

一方で、リアルの場をたくさん持っていることはお客さま企業にとって強みであると捉え、リアルの場をデジタルで武装するとどうなるのかを考えた結果生まれたのがCatch&Goやアバター接客です。 

櫻井さん:これらのサービスによって、買い物体験は全く別のものに変わりそうですね。

内山さん:そう考えています。しかしながら、サービスを育てていく中で難しさを感じていることは、体験を世の中に伝えることです。サービスのメリットや仕組みを頭で理解することと体験することは、感覚として全く違います。しかし、それがどんな体験なのか、どんなインパクトを与えるのかといった抽象的な感覚を、仲間やお客さまに伝えるのは非常に難しいことです。

内山さん

スターバックスは独自の体験を作りあげ、それを広げ、植え付けるまでにいたったことが素晴らしいと思います。 

梅本さん:体験を伝えるための重要なポイントの一つは、ストーリーテリングです。これはスターバックスの経営でも重要キーワードになっています。

スターバックスでは、店舗の従業員のトレーニングに「対話」が組み込まれています。商品の理解や知識は、マニュアルやトレーニングで培うことができますが、個人の考えや好みについては、その人にしか答えがありません。ですから、商品やサービスに対する好き嫌いや本人の考えを言語化してもらうのです。

アメリカ人は昔から自らの考えを言語化することに慣れていますが、一方日本人においても、自分の想いを言語化するよう促されると、とたんに驚くほど輝きます。こうしたトレーニングを積み重ねると、ただの仕事だったはずのものにも、いつしか興味が湧いてきます。従業員は接客の中でも、自発的に自分の好みやおすすめしたい商品を伝えるようになり、自然とコミュニティが形成されていくのです。

スターバックス店舗

こういった話をすると、コーヒーは嗜好品であるから、自分の好みを言語化しやすいのでは、というご意見をいただくことがあります。確かにコーヒーは嗜好品ですが、それでは現代において必需品とは何でしょうか。工業製品でコモディティ化しているものでも、バルミューダのように嗜好品と化しているものは多くあります。ロジカルな選択の前に、好みや感覚的な思考、ストーリーがあるのだと思います

櫻井さん:NTTデータでも同様に、必需品でなく嗜好品を提供することに近づいているかもしれないですね。それであれば、感覚的な「好き」という感情は重要になりそうです。また、お客さまにその価値を伝えるとき、大抵の場合はロジカルに落としこもうとしますが、ロジカルな部分と並行して、自分の強い想いや感覚を伝える技術をもっと研ぎ澄ますことも必要だと思いました

内山さん:お客さまに対しても、社内のメンバー同士でも、そのような対話は積極的にされてもよいですね。サービスの提供価値としてコスト削減や決済不要といった分かりやすいポイントを訴求してしまうところがあるのですが、本当に伝えていきたい買い物体験を伝えるために、それらをもっと言語化し対話する必要があるということに気づきました。

成果と夢をともに追いかけることのできる、お客さま企業との関係性とは

櫻井さん:ビジネスの関係であるお客さま企業とウェットな対話をしていくには、ある程度の信頼関係を築く必要があると思います。私個人は、対話と学習を実現するアプローチの一つがデザインであると考えています。そもそも、デザインとRFPRequest for Proposal:提案依頼書)は相性が悪いものです。なぜなら、RFPは成果物を定義するものであるのに対して、デザインは工程をコミットすることはできますが、成果物をコミットすることはできないからです。そもそも成果物が決まっているなら、デザイン=共創する必要がありません。

櫻井さん

しかしながら、ビジネス上一定の成果というのは求められますので、形にしなければいけないものとそうではない部分を分けてコミュニケーションすることが重要だと考えます。みなさんにも、お客さま企業とどのようなアプローチで関係構築をしていけばよいのかを伺いたいと思います。

梅本さん:実は、日本のスターバックスは本国との間には、年間の出店数や利益額などの契約は一切ありませんでした。代わって、実験的に1012店舗を出店するという契約をむすんでおり、まさにデザイン思考に沿った契約になっていました。

さらに言えば、スターバックスジャパンは米国本国との合弁事業として設立したもので、契約自体が対等なものでした。実際に、サザビー(現・サザビーリーグ)の角田社長は、本国の要求に対して「それはスターバックスらしくない」として、当時のCEOであるハワード・シュルツに直談判し、覆したこともあります。リーダーにフォロワーがもの申し、一緒に磨いていくことができる関係でした

内山さん:ロジックを積み上げるべき部分と、夢として膨らませるべき部分があり、それらをそれぞれ同じ土俵で語り合うことのできる関係は理想的だと思います。そのために、事業成長や成果にコミットすることにとどまらず、どうやって実現するのかという過程を一緒に考える必要があると思います。

そのためには、お客さま企業のめざすべき姿と実行可能なアクションプランの共創が不可欠です。提供しているのがシステムや手段であっても、理念や目標を共有し、達成のために何をしなければいけないか、私たちも考えたいと思っています。

梅本さん:企業のビジネスは、どんなものでも何かしらの夢を持っているものです。

梅本さん

私は契約の際、本国から、日本で1000店舗を出店したいという漠然とした夢を持っていることを聞かされていました。経営視点で考えると何とも根拠のない目標でしたし、契約上の取り決めがあるわけでもありません。しかし、実際に私自身がその漠然とした夢に少なからず惹かれたことも、契約の後押しになったと言えます。

売上という成果だけではなく、なぜ売り上げを伸ばしたいのかという「Why」を問い、お客さま企業の提供価値のピュアな源泉を探求することで、取引以上の関係を結べるのだと思います。

心地よい顧客体験を提供する、デジタルと人の共存

櫻井さん:ここまでの対話で、お客さま企業と一体で、より良い顧客体験やサービス提供を目指していくことが重要だと理解できましたが、小売業の場合、最終的に体験を提供するのは店舗で働く「人間」である、ということも少なくありません。デジタルでどう関与していくのかが悩ましいのですが、これらをどう考えるのかをお聞きしたいと思います。マーケティングは今後ますますデジタルの要素が多くなっていくと思われますが、スターバックスは、モバイルオーダーなどテクノロジーは導入している一方、人が介在する部分も持ち続けていますね。

梅本さん:スターバックスは当時、この瞬間は時間を忘れてリラックスしてほしいという思いから、時計を置かないことにこだわっていました。一方では、Wi-Fiをいち早く設置したりモバイルオーダーを導入したりと、テクノロジーには積極的です。テクノロジーを利用することで、従業員が他に時間を取って、顧客体験を豊かにさせるための取り組みができると思います。

櫻井さん:アバター接客も、実際はアバターを通じて人が接客をするため、最後のインタラクション(お客さまとのやり取り)は人がしていることになりますね。

内山さん:テクノロジーによって、時間や距離を超えてつながるという、いままでできなかったことが可能になりました。しかし、最終的に体験するのは人なので、技術が独りよがりで味気ないものにならないようにしないといけません。人が介在すべきポイントに集中できるよう、テクノロジーで不要な部分をカバーしたいと考えています。

また、企業が発信するメッセージが露骨なものにならず、お客さまに心地よく受け取っていただくことも重要と考えています。お客さまひとりひとりの心理をくみ取ったきめ細やかなコミュニケーションは、もはや人力で実現できることではなく、テクノロジーを活用していくしかありません。あらゆるデータを集めて分析することも必要で、今後さらに進化していく領域と考えています。

対談の様子

梅本さん:膨大なデータに対峙してテクノロジーでは成しえないこと、それはデータを意味づけしていく=ストーリーを作っていくことだと考えます。テクノロジーはあくまでも、人間自身がデータに対して意味づけする作業をサポートするにとどまります。

しかし、そこで重要なのは、テクノロジーが人間をリスペクトし、愛しているかどうかだと思います。今のテクノロジーは、個人の主体性を尊重したものではなく、操作されているように感じることもあるのではないでしょうか。そうではなく、テクノロジーが愛をもってサポートしてくれていると感じるときにはじめて、データを使ったミーニング(意味)が生まれるように思うのです。

櫻井さん:犬型ロボット「アイボ」のユーザーの中には、アイボが壊れて動かなくなったときに、ペットロスのような状態に陥る方もいるようです。同じように、データやテクノロジーがしなやかに人に寄り添うことができれば、友達や愛する家族のようなかけがえのない存在になっていくことも可能なのかもしれませんね

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