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アドテック東京2021レポート② リテールDX最新事例に学ぶ真の成功要因とは?

2021年11月1日、2日にアジア最大級のマーケティングカンファレンス「アドテック東京2021」が開催されました。この記事では、レポート①に続き、「リテールDX事例の最前線」をテーマに様々な事例をご紹介します!

 OMOはもう古い?これからはエンドレスアイルの時代


コロナ禍を契機にリテールのオムニチャネル化が急速に加速したことで、店舗の果たす役割と上質な顧客体験が今まで以上に問われるようになってきました。今回のアドテックでも、さまざまな場面で顧客体験の在り方について議論が交わされていました。

そのような中、今回のアドテックで特に注目されていたキーワードが「エンドレスアイル」でした。

◆エンドレスアイル=デジタル活用の目的がさらに消費者体験主体に

「エンドレスアイル」は、2021年のNRF(米国で開催された小売・流通分野の世界最大規模の展示会)でも注目されたワードです。これからの時代は店舗・オンラインという場所だけでなく、時間や手段までも選ばずに顧客が望んだ体験を提供することが重要という概念です。

エンドレスアイル
「売る」思想の変化

2015年頃の「チャネルをつなぐ」から2018年頃には「体験をつなぐ」へ、そして2020年頃には「つなぐだけでなく、完全な統合」へと思想が変化してきました。さらに2021年になり、「顧客行動の全てが選択肢の一つであり、場所、時間、手段等を選ばず、ユーザーが望んだ体験を提供していくことが重要」との方向性が新たに見えています。事実、アドテックのセッションに登壇した多くの先進的なリテーラー・メーカーが「エンドレスアイル」の概念を志向していることが伺えました。

そのような変化の中で、今回のアドテックで語られていた企業の取り組みとして着目した事例を、「エンドレスアイル」の観点からご紹介していきます。

日米小売業におけるエンドレスアイルの先進事例

◆Walmart:OMO取り組み強化における先進的な「エンドレスアイル」の体現

まず、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるWalmartの事例をご紹介します。

Walmartは2015年から急速にオンライン化を進め、デジタル企業へと変革していきました。変化の上手さの秘訣として語られているのは、自分たちの強みである140万人のスタッフが在籍するリアル店舗5,400店をどう活かしながらデジタル化していくべきか徹底的に検討したことだそうです。

Walmart
着目事例:Walmartのオンライン化への取り組み

具体的には、リアル・オンライン問わず欲しいものを欲しい時・場所で手に入れられる仕組みを構築しました。「見る/試す/運ぶ」シーンでは、リアル店舗でのショールーミングに加え、オンラインでもAR・VRを活用しフィッティング体験を提供、「買う」シーンではリアル・オンライン問わずさまざまな決済方法が実現できるようにしました。また「受け取る」においても、店舗のオペレーションと生産ラインを見直すことで、最適な配送対応が可能になりました。

現在Walmartに続く全米トップ10の企業がデジタル化を目指していますが、単に模倣するだけではWalmartに追いつく・追い抜くことができないため、いかに自社に適した変革を起こしていくかが重要と言われています。つまり自社の顧客にとって最適なビジネスデザイン×オペレーションデザインを徹底的に検討していくことが最高の顧客体験であり、「エンドレスアイル」な取り組みにつながるということです。

単に他社の成功体験や最新のDX技術を取り入れるのではなく、自社のお客さまの本質的なニーズを理解することが、成功の秘訣と言えそうです。

◆STAFF START:販売員のモチベーションアップを起点とし、リアルとオンラインを一枚岩に

日本でもスタッフの観点から「エンドレスアイル」な取り組みをサポートする動きが出てきています。アパレルメーカーでは既に話題の「STAFF START」がその一つです。

販売員がブログでコーディネートを提案、動画投稿やレビュー投稿によりオンライン接客を可能にするサービスとして有名ですが、それだけではありません。投稿機能が簡単なだけでなく、各スタッフの投稿から紐づいて売れたすべてのEC売上・店頭売上を可視化でき、それをスタッフの評価に繋げることができます。

スタッフスタート
着目事例:STAFF START

Walmartの事例にもあったように、単に仕組みをデジタル化しただけでは真の「エンドレスアイル」の実現には至りません。大切なことは、デジタル化の意義を従業員も理解した上で、一人ひとりが顧客のために実現につなげようとする意志であると思います。

その意味でこの事例は、顧客から見ればリアル店舗だけでなくオンラインでも同じ接客が受けられるという「エンドレスアイル」の発想に加え、スタッフにとっての使いやすさや業績評価によるモチベーション向上をデジタル活用によって実現したDX成功事例と言えます。改めてエンドレスアイルの実現には従業員の巻き込みも重要であると感じました。

SPA・メーカーも!事例から見るエンドレスアイルの進展

◆JINS:オンライン×アプリ×CRMで店舗の顧客体験を最大化

「エンドレスアイル」は、小売業だけでなくSPAも取り組んでいます。その一つが、オンラインとの融合によって店頭の価値を最大化させたJINSです。

JINS
着目事例:JINSの戦略

眼鏡は試着・検眼を行うため、店頭での体験が最も重要になります。この体験をデジタル活用によって最大化したことがJINSの成功の大きな要因と言えます。例えば、視力測定の待ち時間のWEB表示、ECと店舗の在庫連動、棚NAVIを活用した商品位置の特定、というように様々なデジタル手法を用いて課題を解決していくことで、店舗での本質価値・顧客体験を最大化したとのこと。

店頭を起点にしつつ、オンラインやアプリをうまく活用することで、通常の店舗体験だけでは得られないような便利さ、快適さを顧客に提供することができる。これもまさに「エンドレスアイル」な体験の一つと言えるのではないでしょうか。

◆Nike(ナイキ):アプリによる直販化&オンライン・店舗の融合

SPAだけでなく、メーカーでも同様の取り組みが行われています。Nike社は「自分たちが直接顧客とつながっていなければ顧客の本質を理解できないのではないか」という危機感から、2017年からデジタル化に大きく事業戦略をシフトしました。具体的には、以下3つのマーケティング戦略に取り組んでいるとのことです。

①直販化
②オンラインとリアル店舗の融合
③少数の戦略的パートナー

NIKE
着目事例:NIKEの戦略変更+その成功

特に①②の戦略を強化、その中でも単なる直販ではなく、どこで買ったとしてもNike商品を購入した方はNikeの顧客であるという考えから、直接消費者とつながることのできるNikeアプリの充実をめざしたそうです。その結果、2022年11月時点でアプリ会員は3億人を突破し、アプリから得られるデータをもとに会員の行動を分析し、マーケティング戦略や商品企画を行っているとのこと。

また、直販化をきっかけにオンライン在庫と店舗在庫の統一を図ったことも大きな戦略変更の一つです。それによって店舗に在庫が無い場合でもECでチェックしてその場で取り寄せたり、家に配送してもらったりすることができるようになりました。

これらの取り組みの結果、2021年にはNikeの直販率は39%まで上がり、売上も29%、利益も35%アップしたそうです。

Nike社の成功ポイントは、もともと卸売や小売を挟んだビジネスモデルだったところから、直接顧客と繋がるモデルへと変革させたところではないでしょうか。まさに「エンドレスアイル」に繋がる、シームレスな購買体験の重要性を感じました。

DXは手段。良い企業理念から良い顧客体験が生まれる

ここまで「エンドレスアイル」に注目してさまざまな事例を紹介しました。そしていずれの事例も、「エンドレスアイル」という手段先行ではなく、お客さまの体験向上が根底にありました。

では、どのような体験を提供することが、その企業の「らしさ」を感じていただけるのか。この章では、「らしさ」=良い企業理念にフォーカスして、各企業における顧客体験と企業理念の関係性、その活用手法としてのDXの在り方についてご紹介していきます。

◆ルイ ヴィトン:企業によって求められる顧客体験は異なる

まずはセッションRC-8「顧客体験(CX)の充実を伴うDXの進め⽅」で挙がったお話からご紹介します。

ルイ ヴィトン・ジャパンの遠藤さんは「理念がない限り顧客体験は提供できない。その先に手法としてDXがある。まず自社がどういう顧客を相手に価値を提供したいかきちんと考え、その上でデジタルをどう活用すれば素晴らしい顧客体験になるのか考えることが大切です」とお話しされていました。

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セッションRC-8の様子

例えば、アマゾンでの理想の顧客体験とルイヴィトンでの理想の顧客体験は異なります。ルイヴィトンではアマゾンのような翌日配送が求められていないように、まずはルイヴィトンに求められている顧客体験がどんなものなのかを深く理解し、その体験をどんなコミュニケーションを用いて築き上げるか。そこをよく考えたうえで初めてDXという手法が検討される、と遠藤さんは仰っていました。

このお話から見えることは、いかに企業理念→顧客体験→DXを丁寧につないでいくことが重要かということ。そしてその顧客体験を考えていく上で、対面接客でスタッフが把握していたこれまでの情報に加え、AIやビックデータを活用した蓄積データを分析していくことで顧客理解につなげていく。そこで初めてデジタルが重要になるのであると感じました。

◆コーセー:「ファシオ」のリブランディング事例

セッションMC-7「ファンマーケティング、カスタマーサクセスの潮流」では、コーセーの桶川さんが「マーケティング戦略において最も重要なことは、顧客視点を忘れないこと。企業は顧客が今求めていることが何かを言語化し消費者と真のコミュニケーションを行うことが重要です」と仰っていました。

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セッションMC-7の様子

それを大きく実感したのは、コスメブランド「ファシオ」のリブランディングを行った時だそうです。元々30代をメインターゲットとしていたファシオですが、20代のファンも獲得していくため、SNSで戦えるブランドとなることを目指し、ファシオのロイヤルユーザーである美容系インフルエンサーを集めデプスインタビューを行いました。その際に長年ブランドのコンセプトとして大切にしていた「ヘルシー」という概念が、20代ユーザーの求めている「ヘルシー」と大きなずれがあることに気づいたそうです。

ブランドが考える「ヘルシー」はアクティブをテーマにした概念であったため、SNSもビタミンカラーなど元気の出るカラーで統一して打ち出しを行っていました。一方、ユーザー側ではありのままでいられることが今の「ヘルシー」であり、カラーも単に明るいものではく、肌馴染みの良いくすみカラーが好まれるということを知り、衝撃を受けたそうです。そこからSNSでの打ち出し方もユーザーの求めるトーンへと変更していった結果、インスタグラムでのフォロワーが増え20代のファンを多く獲得することができたそうです。

セッションを通じさまざまな企業の方のお話を伺っていると、顧客を理解した上でのコミュニケーションというのは、当たり前のようであって実はきちんとできている企業はそこまで多くはないのではないかと思いました。自社の顧客を見つめ直し、顧客が今どんなことを考え、何を求めているか常に念頭に置くことが今のマーケティングに求められていることなのではないでしょうか。

まとめ:DXがもたらす顧客体験と、その根底にある企業理念の重要性

本記事では、「リテールDX事例最前線」をテーマに、エンドレスアイルの各社取り組みとそれがもたらす顧客体験、そしてその根底にある企業理念の重要性までをご紹介させていただきました。

どの事例もデジタルマーケティングを学ぶ身として大変参考になるお話ばかりでした。しかし総じて大切なことは、自社の顧客の深い理解と、企業理念に基づく素晴らしい体験をその本質から考えることではないかと考えさせられました。

DXは革新的な手段ではあるものの、うまく進めるためには顧客視点、そしてその原点となる企業理念の2つに立ち戻ることが最も必要であると感じました。

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