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ビジネスデザインスプリントの挑戦 ③検討ポイント#1 課題仮説

「新規サービス企画の第一歩」、ビジネスデザインスプリント™(以下BDS)、連載第3回です!前回お伝えしたBDSの概観に続き、今回からは、BDSの8つの検討ポイントの詳細解説をお届けします。初回は、1つめの検討ポイント「課題仮説」です!

田邉裕喜(たなべひろき)
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 サービスデザイン統括部 デジタルエクスペリエンス担当 シニアコンサルタント
コンサルタントとして、小売・流通、製造、ユーティリティなどの業種を対象に、デジタル技術を活用し新規サービス創出や共創ラボ運営などのプロジェクトに従事。その後、スペインに拠点を置くコンサルファームeveris社に1年半ほど出向して欧州企業のDXプロジェクトに参画。帰国後、現職へ。現在は流通・サービス業のお客さまに向けたDXソリューションの企画やコンサルティングを通じて、顧客企業のデジタル変革や新規サービス創出支援に取り組んでいる。

前回の記事はこちら。

テキストは⾃動で⽣成されます

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すべてのビジネスの起点となる「課題」

「課題仮説」の本題に入る前に改めて考えておきたいこと、それは「そもそもプロダクト(サービスなど含む)は何のためにあるか?」です。シンプルにいえば、プロダクトとはユーザーの課題(ニーズやペイン)を解決する見返りに、その対価を受け取るものだといえます。

スタートアップの失敗要因の最も多くが「マーケットニーズがない」こととも言われています。つまり、プロダクトを考えるうえで起点となるのは「誰」のどのような「課題」を解決するか。最初の段階で解くべき「課題」をきちんととらえるために、まずは課題”仮説(=仮の答え)”を明確にすることが1stステップとなります。

BDSでは3つのキークエスチョンに答えることで、課題仮説を考えていきます。

Q1:どんなユーザーが、どんな課題/ニーズをもっているか?
Q2:どんな企業が、どんな課題/ニーズをもっているか?
Q3:それらは取り組んだら儲かりそうな筋の良い課題/ニーズか?

誰がどんな課題をもっているかを明らかにする

Q1やQ2では、誰がどんな課題/ニーズをもっているかを明確にしていきます。ここでまずポイントとなることは、対象となる「誰」が単一かどうかです。

例えばBtoCサービスであれば、お客さまとなるエンドユーザーの課題/ニーズだけ考えることになりますが、BtoBtoCサービスの場合はC(エンドユーザー)に加え、B(企業)の課題/ニーズも検討する必要がある、ということです。

具体的な事例にあてはめてみましょう。たとえば、みなさんがNTTデータの社員となって、小売企業向けに店舗の商品棚の在庫状況を検知するソリューションを企画することになりました。現時点で決まっているのはこれだけで、どういった市場にどのようなサービスを提供するかは白紙の状態です。

この場合、このアイデアが「誰」のどのような「課題」を解決するのかを考えてみましょう。「誰」でまず思いつくのは、NTTデータが直接このサービスを提供する小売企業です。たとえば店舗の商品棚の在庫状況がリアルタイムでわかれば、商品が欠品したときにすぐ補充でき、「機会損失を少なくしたい」というニーズが満たせそうです。

これだけでも十分なように見えますが、加えて、店舗に来店するお客さまのことも考えてみましょう。来店したお客さまにとって、このサービスによって「欲しい商品が店舗で入手できる確率が高まる」ということが嬉しいことになりそうです。

  誰の どんな課題/ニーズか
企業 小売企業 欠品による機会損失をなくしたい
ユーザー 店舗の来店客 欲しい商品がちゃんと店舗で入手できる確率が高まる

このように、目の前の相手だけでなく、その先にいる人までを想像しながら、抱えている課題や期待を読み解いていくことが、まずは重要になります。

その課題の「筋の良さ」を見極める

次に「Q3:それらは取り組んだら儲かりそうな筋の良い課題/ニーズか?」について
考えてみましょう。企業で取り組む以上、確実に誰かの課題解決になるとしても、それがビジネスとして成立しそうな「筋の良さ」をもっているかは大切な要素です。ではその「筋の良さ」はどうやって見極めるのでしょうか?

BDSでは、課題/ニーズの「筋の良さ」を以下の4つの観点で見極めることをおすすめしています。

  • 粒度: その課題は、検証できるレベルに解像度が高いか
  • 重さ: その課題は、なんとしても解決したいと思えるレベルに切迫しているか
  • 深さ: その課題は、表層的ではなく、真因にたどりついているか
  • 広さ: その課題は、それを解決したいと思える人が十分な数存在するか

課題の粒度
まず、「粒度」は、対象とする課題仮説がその状況を頭の中で具体的にイメージできるくらい具体的になっているか、ということです。

先ほどの「小売企業の欠品による機会損失をなくしたい」の場合、小売企業といってもさまざまな業種・業態がある中で、“一番困っているのは誰か?”と考えてみてください。具体的には、欠品を防ぐことが難しい売り場は?→欠品点検が大変なくらい売り場面積が広い業態?→スタッフ人数が少ない、もしくは商品補充の頻度が高くない業態?→当てはまるのはホームセンター業態?と言った流れです。

  誰の どんな課題/ニーズか
企業 小売企業
→ホームセンター企業
欠品による機会損失をなくしたい
ユーザー 店舗の来店客
→ホームセンターの来店客
目当ての商品がちゃんと店舗で入手できる確率が高まる

課題の重さ
次に、「重さ」の観点では、その課題が何としても解決したい差し迫った課題か、をみていきます。特に最初の段階では、一人でもいいので「目の前にいる実際の誰か」がこの課題を「お金を払ってでも本当に解決したいと思っているかどうか」がとても大切です。

これを検証する方法として、「プロブレムインタビュー」と言う、課題を持っていそうな人に直接インタビューする方法があります。たとえばお客さま企業の候補となるホームセンターA社の責任者から「この欠品はすごく深刻な課題で、今は人手で対策しているものの徹底できておらず、ちょうど情報収集していたところだ」という反応が得られたとしたらかなりの「重さ」と言えるでしょう。

さらに、ユーザーの候補となりそうなDIY好きの知り合いから「近くのホームセンターでは、1カ月前に行ったときにも欲しかった商品が品切れで困った」という声も集まれば、企業とユーザー双方の観点で「重い」課題と考えられます。

一方、「重さ」にはもうひとつ重要なポイントがあります。それは、この課題解決に企画者であるみなさん自身が情熱を感じるか、つまり「WILLの強さ」です。理想を言えば、この課題を感じている当事者がみなさん自身であること。そうでなかったとしても、身近な人がその課題を感じていて、みなさん自身がその課題に共感し、本当に解決したいと思えるかどうかが、今後企画を進める上で発生するいくつもの試練を乗り越えるうえで重要な意味をもつはずです。

課題の深さ
続いて、課題の「深さ」です。こちらは、ちゃんと課題の真因にたどりついているか、を確認します。

「なぜその事象が起きているのか?」「なぜ解決しなくても何とかなっているのか?」「なぜ今は解決できていないのか?」「解決しようとしてもやれない理由はなにか?」こういったことを、なぜなぜ分析を繰り返しながら深掘っていきます。

この時、課題が発生している現場の情報を取りに行くことが重要なポイントとなります。ネットや書籍から入手できる情報を使って、自分が対象とする課題仮説を裏づけようとすることは危険です。自分自身で対象となる企業やユーザーに直接インタビューや調査を実施して一次情報を取ることで、「自分自身しか知らない真実」を把握することに価値があります。

課題の広さ
最後に課題の「広さ」について触れます。ここでは、その課題を解決したいと思える人が十分な数存在しそうか、金銭的な大きさが十分ありそうか、を見極めます。言い換えれば、自分たちの貴重なリソースを投入するのに十分なビジネスポテンシャルがあるか、ということです。

ここでよく使われるのはTAM(Total Addressable Market=獲得できる可能性のある最大の市場規模)という考え方です。TAMは、そのサービスの売上見込みではなく、そのサービスが競争する領域自体がどれだけ大きいかを判断するという考え方です。

たとえば、シェアリング型の宿泊予約プラットフォームを展開するAirbnbの場合、創業当初の投資家向け説明資料では、TAMとして「世界全体の宿泊予約」をターゲットにしています。彼らが事業を立ち上げた時の「シェアリング型宿泊予約市場」はとても小さかったはずですが、Airbnbで解決できる課題はホテルなどの宿泊予約すべてと考え、TAM=「世界全体の宿泊予約」に設定したと想像できます。

TAMは公知情報などからクイックに算出してみるだけでも意味があります。さきほど挙げた商品棚の欠品検知ソリューションの場合、「国内のホームセンター全体の市場規模は約4兆円」と「店舗の売上の4%が欠品で機会損失している」という調査データを基に、TAMは約4兆円×4%=約1600億円/年と推定できます。

TAMは自分たちがどのくらい大きなマーケットで活動しようとしているかをざっくり把握するためのものなので、細かい計算に時間をかけるよりも、ネットなどで簡単に入手できるものから、クイックに試算してみるとよいでしょう。

これら4つの観点は最初から網羅できている必要はありません。最初はかなり粗削りな課題仮説からスタートしつつ、いち早く課題が発生している現場に赴いて、ユーザーインタビューやリサーチなどを通じて課題仮説を検証することが重要です。素早く、かつ数多くの検証を繰り返すことで、次第に課題仮説が研ぎ澄まされていくでしょう。

今回は、BDSの8つの検討ポイントのうち、「課題仮説」について解説しました。次回は2つめの検討ポイントとなる「サービスモデル」について取り上げたいと思います。乞うご期待!

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