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アドテック東京2022レポート①顧客体験のデジタル活用最新事例

2022年10月20日、21日に開催されたアジア最大級のマーケティングカンファレンス「アドテック東京2022」。今年は総勢232名の現役トップマーケターが登壇、リアルとアーカイブ配信合わせて1万6,520人が参加し、大きな盛り上がりを見せていました。この記事では、デジタルを活用した顧客体験の最新事例をご紹介します!

ライブ配信を活用した顧客体験向上(ファンケル)

まずはファンケルのライブ配信に関する取り組みです。元々は店舗でのリアルな体験のみを提供していたファンケルですが、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけにオンラインでの体験を提供するようになりました。

ライブ配信で主に行っているのは商品紹介です(画像①)。社員の方が商品を紹介、視聴者は欲しいと思ったら右下のボタンから簡単に購入することができます。

画像① ファンケルのライブ配信の様子  引用元:ファンケルライブショッピング[https://www.fancl.co.jp/liveshopping/index.html]

ここまでは一般的なライブ配信と変わらないように感じます。しかしファンケルでは、ライブ配信の際に徹底的に視聴者との一体感とコミュニケーションにこだわることで大きな変化を起こしました。

まずはチャットについて。画像①を改めて見てみると多くのチャットが流れていますが、ライブ配信を始めた当初は少なかったそうです。そこで、視聴者からのチャットに対して全て返信するようにしたところ、日に日にチャットが増え、今では多すぎて読めないほどチャットが来るようになったとのこと。

全てのチャットへの返信は今でも継続しているため、ライブ配信には毎回十数人ほどのチャット部隊を構えるほど、かなり力を入れているそうです。自分のチャットに対して必ず反応をしてくれるというのは視聴者としてはとても嬉しいですよね。

また、一体感を出すためにライブ配信の始まりに全員で一緒にお茶を開けるそうです。本当に効果があるのか、と思ってしまいますが、実は満足度向上にとても効果があるそうです。実際に、司会の方が忘れてしまったときには、視聴者から残念がる声が届いたそうです。

他にも、商品を事前に郵送しておいて一緒に使ってみたり、出演する社員には最低限のレクチャーをするのみでライブ配信では自由に語ってもらったりと、一体感を出すために様々な取り組みをしています。

ライブ配信施策を牽引するファンケル通販営業本部営業企画部の長谷川さんいわく、このライブ配信は商品販売を1番の目的にしていないとのこと。そもそも、ライブ配信で商品を売ることはかなり難しいと思っているそうです。従って、ファンケルではライブ配信は売上向上ではなく、LTV向上を主な目的としているとのことです。

こうしたコミュニケーションによって、ライブ配信後しばらくしてから商品を買ってくれる顧客は多いそうです。ライブ配信での商品紹介はさまざまな企業で取り組んでいると思いますが、コミュニケーションと一体感に徹底的にこだわり、ここまでの取り組みを講じている企業はなかなか無いのではないでしょうか。デジタルをただ使うだけでなく、顧客体験に着目し利用したことが成功につながった事例だと思います。

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DT-3  オンラインとオフラインのハイブリッド施策における身体性 

AI活用で顧客の状況に寄り添う体験を実現(NTTドコモ、三井住友カード)

つづいて、AIを活用した顧客体験の改善例を2つ紹介します。

NTTドコモ AI保険


まずはNTTドコモのAI保険です。AI保険とは、身近なリスクに対応する10種類の保険から、お客さまのリスクを分析し、お客さまのタイプに合わせた保険をおすすめしてくれるサービスです。今回はその中のゴルフ保険(ゴルフ中のケガや事故を補償する保険)について紹介します。

NTTドコモは、このゴルフ保険を自社の通信網を活かして基地局位置情報と連動させることで、顧客体験を改善しました(画像②)。具体的には、ゴルフ場の入口付近を訪れたお客さまに対してゴルフ保険についての情報を発信することで契約を促す仕組みです。この仕組みを取り入れた結果、CVR(Webサイト訪問者のうち、購入や問い合わせなどに至った割合)は約4倍、新規獲得数は約2倍となりました。とても大きな反響があったことがわかります。

画像② ゴルフ保険と位置情報の連動

位置情報を利用することでゴルフ中・直後のお客さまにアプローチできることが顧客体験としても営業効率としても非常に効果的と感じました。ゴルフをしているときにこそ、お客さまはゴルフ保険の必要性を感じ、次回のゴルフに向けて契約を考えるのではないでしょうか。そういったリアルタイムの状況に合わせたアプローチがゴルフ保険の成功に繋がったのではないかと思います。

これまでは「過去」のデータに基づいてお客さまの理解を深めることが重要でしたが、これからはお客さまの「今」のデータからお客さまを知ることも重要になってくるのではないでしょうか。

三井住友カード Custella


次の事例は、お客さまの状況をこれまでにないレベルで理解することによって顧客体験を改善した事例です。三井住友カードの「Custella」は、三井住友カードが保有するキャッシュレス決済データを用いて、企業のマーケティングを支援する分析サービスです。(画像③)

画像③ 三井住友カード「Custella」

会員数2千万人、取り扱い金額年間15兆円もの膨大なキャッシュレス決済データには見えない顧客ニーズを導き出すほどの力があります。

例えば、ペットを飼う人は同時期に家具を買うという特徴があるそうです。これはペットを飼う人は引っ越しなどで生活環境が変わった人が多く、そのような人は家具を新調することが多いからだそうです。一見関係の無いデータすらも利用してお客さまの思わぬ特徴を把握できることは、Custellaの分析力の凄さを証明していると思います。

また、導入事例として、テーマパークでのターゲット分析が紹介されていました。そのテーマパークでは、観光目的の遠方居住者か年間パスを持つ近隣居住者か、どちらをメインターゲットとするべきかという問題がありました。この問題に対しCustellaを用いて売上インパクトなどを見極めた結果、年間パスを持つ近隣居住者を優先ターゲットにすべきと判断したとのことです。その結果、テーマパークでは年間パス保有者向けに、グッズやフードを企画する取り組みを行うようになったそうです。

今回のCustellaの事例は過去データから今まで以上により深くお客さまを理解する取り組みでしたが、今後は前項で紹介したゴルフ保険のように、リアルタイムの状況をより深く理解・予測するような使い方でも大きく力を発揮していくのではないかと思います。過去データの高度な分析によって、現在・未来のお客さまの行動を予測し、実際の結果と照らし合わせることで更に精度の高いリアルタイムマーケティングが実現できるようになるのではないでしょうか。

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DT-4 大規模言語AIが変える顧客体験 

イマ話題の「大規模言語AI」を顧客体験にどう活用するか

そしてこれらのAIを活用した事例は、大規模言語AI(AIファウンデーションモデル)が出現したことによりさらに飛躍的に進化する可能性を秘めています。

大規模言語AIとは、事前に超大規模データを学習することで、少量の個別データでも高い精度で処理ができるようにしたものです(画像④)。従来のAIでは実現できなかった、書く、読む、話すなどの作業ができるようになります(画像⑤)。2022年に「神絵を描くAI」として大きな話題となったMidJournyや、人間に近い自然な回答ができると話題のChatGPTなどは、こうした大規模言語AIによるものです。

画像④ 大規模言語AI(AIファウンデーションモデル)について
画像⑤ 大規模言語AIができうること

セッションでは、文章執筆AIのイライザペンシルについて紹介がありました(画像⑥)。複数のキーワードを指定することで、そのキーワードに合った文章を作成してくれます。 

画像⑥ イライザペンシル

また、話題のMidJourneyについてもセッションで紹介がありました。英語で指示をすることで画像を生成してくれるAIサービスです。(画像⑦)

画像⑦ MidJourney

このように大規模言語AIを用いることで今までよりも人間に近いコミュニケーションが可能になります。では、これをどのようにマーケティングや顧客体験の向上に活用すべきでしょうか。

例えば、コミュニケーションと一体感に徹底的にこだわり抜いて成功したファンケルのようなケースで、この大規模言語AIを活用することによって、デジタルでの応対にも思いやりを込めたものができるようになるのではないでしょうか。

もちろん、「人が応対すること」と「AIが人の応対に近いことを行うこと」は本質的には異なりますが、AIが人に近い応対ができるようになることで、より人によるコミュニケーションの価値が高まったり、こうした大規模言語AIが人と人とのコミュニケーションを支援したりする可能性も考えられると思います。

また、顧客の状況をより詳しく理解するという点で、大規模言語AIが価値を発揮する可能性もあります。より人間に近い思考を再現できるからこそ、ある種の情緒すらも交えて顧客の状況や思考を予測したアプローチが実現できるのではないでしょうか。

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DT-4 大規模言語AIが変える顧客体験 

まとめ

今回はアドテック東京2022にて紹介された事例の中で、デジタルを用いて顧客体験を向上させているもの、させる可能性を秘めているものを中心に紹介しました。

今回紹介した事例はいずれも単なるデジタル活用ではなく、顧客体験を向上させるために人による対応と組み合わせたり、顧客をより深く理解するために活用したりするなど、明確な狙いを持ったうえで適切にデジタルを用いることで大きな成功を収めていました。デジタルという手段がこれからますます増える中で、従来よりも本質的な目的に立ち返ることや、深い思考が必要になってきたのだと感じます。

そして、大規模言語AIのように、革新的な技術はこれからも続々と登場します。マーケターやUXデザイナーと言った職種においても、こうした技術を理解し、顧客体験の向上に向けてどう利用できるかを考え続けることが、今後より重要になっていくのではないかと感じました。

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