
三井不動産は、商業施設に来館したお客さまに魅力を感じてもらえる店舗づくりをめざすべく、顧客行動の可視化に取り組んでいます。その一環として2022年10月15日から11月28日、三井不動産はNTTデータとのパートナーシップのもと、AIカメラから得たデータを解析し、テナント店舗への入店率を高めるVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の実証実験を三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO-BAYで実施しました。今回は、プロジェクトの中心人物の3人に、リアル店舗におけるVMDについて語り合ってもらいました。
【対談者紹介】

岩本 昌丈 ※写真左
三井不動産株式会社DX本部DX二部DXグループ技術主事
商業施設本部商業施設運営部イノベーション推進グループ兼務
越智 将平 ※写真中央
三井不動産株式会社DX本部DX二部DXグループ技術統括
商業施設本部商業施設運営部イノベーション推進グループ兼務
橋口 基宗 ※写真右
株式会社NTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 サービスデザイン統括部 デジタルエクスペリエンス担当 課長代理
リアル店舗にも求められている“as a Service”化
橋口さん:今回の実証実験では、三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO-BAYに出店されているnano・universeの店舗にAIカメラや赤外線センサーを設置して、マネキン、デジタルサイネージといったVMD(注1)の要素やその組み合わせに対するお客さまの実際の反応を計測し、どのパターンが最もお客さまの反応が良いかを検証しています。
注1)ビジュアル・マーチャンダイジングの略称。売りたい商品を見えやすくして買いやすくすることで、売り場の装飾などで販売スタッフが接客をしなくても、販売に繋がるようにすること。

まずは、今回の取り組みの経緯として、三井不動産が考える現状の商業施設にまつわる課題を教えてください。
越智さん:商業施設、つまりリアル店舗が抱える課題は大きく2つあります。1つめが「as a Service化(テナントのさまざまな課題を解決できるサービスを提供)に対するニーズの高まり」です。私たちのビジネスモデルは、テナントが店舗に入ってもらい、その賃料をいただくというものです。ただ昨今では、そうした単純な方式だけではなく、商業施設側が“as a Service化”に歩み寄っていかなければなりません。特に多くのテナントがコロナ禍の影響を強く受ける中、私たちの立場から新たな支援をしていく必要があります。
そしてもう1つは、「オリジナリティあふれる仕掛けづくり」です。当社は長年に渡り全国に多くの商業施設をつくっていますが、その中で、それぞれの施設が同質化しているのではないかという危機感を持っていました。お客さまとしても、独自性あふれる空間や、ユニークなコンテンツを求めていることでしょう。そこで、施設やテナントごとの色をもっと引き出し、商業施設のコンテンツとしての面白さをいかに発揮していくかが課題であると思っています。
橋口さん:なるほど、お客さまの価値観が多様化していく中で、商業施設としてどう応えていくのかを今後検討する必要があるのですね。シンプルに言えば“面白い店舗に人が集まる”ということでしょうか。
岩本さん:お客さまの価値観もそうですし、ECを含めた購買行動も多様化する中で、商業施設でのお買い物の大きな魅力の一つとして、新しい店舗や商品に出会えるという点があると思います。こうした新たな出会いを提供できる商業施設をめざすことで、お客さまにも特別な価値を感じていただけると考えております。デジタル技術を活用し、こうした価値を創出できないか、というのが今回の実証実験のテーマと言えます。

VMDの影響が特に期待できるアパレル店舗
橋口さん:今回のようなDXの取り組みを展開するために三井不動産はどのような制度や体制を整えているのでしょうか。
岩本さん:2020年からデータブートキャンプという取り組みを行っています。これはDX本部主導のもと、各事業部のメンバーとタッグを組み、データを活用した課題解決に取り組むというものです。今回のプロジェクトは、先述したような課題の解決に向けて商業施設本部が取り組んでいる施策となります。
橋口さん:三井不動産でもデータ活用の取り組みが加速しているのですね。商業施設の出店テナントにはさまざまなジャンルの店舗があるかと思いますが、なぜ今回アパレル業界を選定するに至ったのでしょうか。
越智さん:やはり出店数の多いカテゴリーでありますし、加えてコロナ禍でマイナス面の影響をとりわけ強く受けた業界であるというのが大きいですね。また、今回のVMDという観点からお客さまと店舗のマッチングを考えた際、マネキンを用いることができるなど、効果が出しやすいのではないかという期待もありました。加えて、特に感性によるところが大きい分野であるため今回の定量化に向いているのではという考えもありました。
また、アパレル業界は、リアル店舗側の課題感も総じて高く、多様化するお客さまニーズに応えられる店舗づくりという点で、私たちと共通する問題意識を持っていました。これらを理由に、今回の実証実験のフィールドとなる店舗としてアパレル業界を選定したのです。
橋口さん:アパレルテナントの中でも今回nano・universeを運営するTSIホールディングスさまをパートナーとして選んだ意図はどこにあるのでしょうか。
越智さん:一番の理由は、ターゲット層が広いセレクトショップであることですね。ミドル層を中心にお客さまの性別、年代も幅広く、価格帯もすごく高いわけでもないし、極端に低いわけでもなく、かつ多くの品番数を有しています。また、商品のシーズンサイクルが非常に早いので、現場で工夫を凝らす文化が自然と醸成されているはずです。これらの理由から、VMDの影響が大きいのではないかと考え、TSIホールディングスさまにお声がけしました。

積み上げてきた信頼関係と確かな技術力、コンサル力が選定のポイントに
橋口さん:今回のプロジェクトで、NTTデータをパートナーとして選んだ理由を教えていただけますか。
越智さん:NTTデータは、これまでもリアルとデジタルにまたがった世界の問題解決に一緒になって色々と取り組んでくれていました。そのため、前提知識が共有されており、信頼関係もすでに構築できていたことから、お声がけさせていただきました。
岩本さん:今回のプロジェクトのポイントとなるAIカメラをはじめ、最先端のテクノロジーにも知見をお持ちで、かつ、プロジェクト推進やデータ分析といった役割全体をワンストップで対応いただけるのは、NTTデータの大きな強みだと考えています。今回のような新たな取り組みである実証実験には最適なパートナーだと思いました。
橋口さん:機器やソリューションを提供するインテグレーションの観点ですと、最先端のテクノロジーの技術的知見の提供だけではなく、テクノロジーを試用・比較・検討してきたこれまでの実績から、業務やサービスに装着できる価値を提供したいと考えています。
では、実際にプロジェクトを行ってみて、当社がそうした期待に応えられたと感じていますでしょうか。
岩本さん:もちろんです。プロジェクトを通して、NTTデータメンバーの専門性・能力が非常に高いと実感させられた場面が何度もありました。例えば、何かお願いしたことに対するスピード感が想定以上に早かったり、問題が起きた際の対処やサポートなども親身で的確だったりと言ったところです。
越智さん:リアル店舗VMDという領域の中で、何をどのようにモニタリングして、計測/分析結果をどのような形でビジネスにしていくかという、業務やビジネス設計の部分でも非常に大きく関わって頂けました。三井不動産側で考えるべき事柄についても、先回りしてNTTデータから提案をいただけたので、デジタルに限らずビジネス領域のコンサルティングも頼りになるなと感じています。
NTTデータにはアパレル業界出身メンバーの方もいらっしゃるなど、改めてさまざまなバックボーンやスキルを持った社員の方が多くいらっしゃると感じました。
橋口さん:ありがたい言葉をいただき大変うれしく思います。きっと、プロジェクトに携わったメンバーもみんな大いに喜んでいるはずです。

実験から見えてきた、入店率を高めるための体系的なアプローチ
橋口さん:今回の実証実験を通じてどのような成果が得られたと見ていますか。
岩本さん:まず、今回のプロジェクトは、そもそも商業施設の通行者や店舗への入店者をある程度の精度で計測可能かという技術検証の観点から始まっています。この点に関しては、NTTデータのご提案通りの成果が得られました。実際のVMDに関する知見の部分で言えば、今回のトライアルは2ヶ月ほどでしたので、具体的なノウハウというよりも、体系的なアプローチを見つけられたことが大きな成果だったと言えます。その一方で、実際に運用してみて、アパレル店舗の運営オペレーションに組み込む難しさというのも見えてきたので、そこにも今後取り組んでいきます。
越智さん:入店率を高めるのがプロジェクトの最大のKPIでしたが、そこに関して完全な“勝ち筋”を見つけるのは大変だと考えています。しかしながら、AIカメラによってお客さまの行動ルートなど、ある程度のパターン性が見えてきました。この取り組みを継続していけば、その精度はより高まっていくことでしょう。それと合わせて、入店率を高めるために計測すべきポイントや改善点も見えてきました。このような気づきも大きな成果だと感じています。
橋口さん:フィールドとなった商業施設やテナントからはどのような声が届いていますか。
越智さん:プロジェクトの結果として示した各種の数字に対して、店舗スタッフの方々が「もっと見たい」「今後に向けてどうしたらいいか」と、私たちに要望を投げかけてくれます。このことから、想像していた以上に、潜在的な課題感を店舗スタッフの方々が抱いていたのだと気づかされました。
橋口さん:店舗スタッフの皆さんがこれまでは感覚的に捉えていたことが、具体的な数字で示せるようになったことで、今後店舗のサポーターとして支援できる道が見えてきたという感じでしょうか。
岩本さん:そうですね。まさに、テナントのご支援はデベロッパーにとって大きな役割の一つだと考えてますし、今後に向けて大きな一歩だと思います。

リアル店舗をサポートするソリューションを展開
橋口さん:商業施設を運営する立場として、今後どのようなサービスをテナントに展開していく方針でしょうか。
越智さん:テナントにとって役立つ示唆を提供し続けるのが、私たちの責任ではないかと考えております。ECと違いリアル店舗ではまだまだ情報が足りないと言われているため、私たちがその部分を補えるようなサービスを提供していきます。今後も商業施設としてテナントをサポートできるようなソリューションを提案していきたいですね。
岩本さん:その実現のためのパートナーとして、NTTデータには大いに期待しています。
橋口さん:精一杯努力させていただきます。このほどは貴重なお話、ありがとうございました。


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